ダンボールを落とす引越し業者

不用品回収業者のビジネスチャンス!プチ引越しがこれから流行る理由でも解説したように、今後単身者向けのプチ引越しの需要は高まると考えられます。このような状況を受けて、今後引越しサービスを始めようと考えている不用品回収業者も多いのではないでしょうか。

しかし不用品回収サービスと違い、引越しサービスの荷物は運び終わった後も依頼者が実際に使用するものばかりです。そのため運搬中に傷や汚れなどをつけるわけにはいきません。とはいえあくまで人の手で行う作業ですから、全ての荷物を完璧に運べるわけではなく、どうしても傷や汚れがついてしまうこともあります。

ここで役に立つのが保険の存在です。ここでは不用品回収業者が引越しサービスを始める際に加入しておくべき保険について解説します。

INDEX
  1. 保険に加入しておくべき3つの理由
    1. 引越し時のトラブルは想像以上に多い
    2. 万が一の時でも気持ちの良い対応ができる
    3. 自社の従業員を守ることができる
  2. 加入しておくべきは「運送業者貨物賠償責任保険」
    1. 補償してくれる場合・補償してくれない場合
    2. 補償を受けるほど保険料は高くなる
  3. 依頼者に入ってもらう「引越荷物運送保険」
  4. まとめ

保険に加入しておくべき3つの理由

引越しサービスを提供するうえでの保険の必要性は、大きく3つの視点から説明することができます。以下ではこの3つの視点について一つずつ解説していきます。

引越し時のトラブルは想像以上に多い

傷や汚れをつけてしまえば、不用品回収業者側が再購入や修理の費用を負担することになります。この費用が安くて、しかも頻度が低ければ、その都度自社で負担しても痛手にはなりません。しかし家財道具の中には高価なものも少なくなく、場合によっては数百万単位の出費になる可能性もあります。

またある調査では、引越しサービス全体の1割超でトラブルが発生しているというデータも出ています。10件対応すれば1件で何かしらのトラブルが起きるわけです。また国民生活センターによれば、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に寄せられる主な相談内容は作業中の荷物の破損・紛失、料金に関するものとのこと。

これらを総合して考えてみると、引越し時の荷物の破損・紛失トラブルは想像以上に多いことがわかります。そのため引越しサービスを提供する側としては、リスク対策として保険に加入し、万が一の出費に備えておく必要があるのです。

万が一の時でも気持ちの良い対応ができる

最敬礼をする男性

保険に入っておらず、自社の責任で依頼者の荷物の保障をしなければならないという状況で、もし荷物の破損や紛失が起きてしまったらスタッフはどう考えるでしょうか。もちろんスタッフの教育状況や本人の価値観にもよりますが、「やってしまった!会社にバレたら大変なことになる!」と考えて、なんとかして自社の責任ではないと言い張ってしまう可能性も十分にあります。

実際最後まで「自社は適切な運び方をしていた」「もとからあった傷・汚れだった」と言い張り、依頼者が泣き寝入りをせざるを得ないというケースも少なくありません。ここまではっきりと言わなくとも、それとなく依頼者側の責任にしてうやむやにしようとする引越し業者も存在します。

こうした対応をすれば確かにスタッフ本人のメンツや目先の会社の利益は守れるかもしれません。しかし依頼者側から見れば、お世辞にも気持ちの良い対応とは言えず、「この業者には二度と頼まない!」と憤るばかりか、その憤りをネットの口コミサイトなどに書き込むかもしれません。そうなれば引越しの依頼は減り、長い目で見た会社の利益は目減りしてしまいます。

このようなリスクを抑えるためには、現場の担当スタッフが依頼者に対して「申し訳ありません。弊社が加入しております保険にて、弁償させていただきます」と言える逃げ道を作っておく必要があります。そうして依頼者側から見て気持ちの良い対応ができれば、逆に「傷や汚れはつけられたけど、その後の対応は気持ちが良かった」と印象がプラスの方向に変えることができるのです。

自社の従業員を守ることができる

依頼者によっては大切な家財道具に傷や汚れをつけられて激怒する人もいますし、訴訟を起こすと脅す人や、実際に訴訟を起こす人もいます。こうなってしまった時に、一番責任を感じるのは現場の担当スタッフです。真面目な人ほど「自分のせいで会社に迷惑をかけてしまった」「会社にいづらい」「また同じミスをしないか不安で仕事が手につかない」と自分をどんどん追い込んでしまいます。

そのような時に上司や経営者から「大丈夫。ちゃんと保険で対応できるから」「お前が手を抜いたわけじゃないのはわかってる。気にするな」と言えるかどうかは、社員を必要以上の罪悪感や不安感から守るために非常に重要なポイントになります。

このように保険には、トラブルから自社の従業員を守るという役割もあるのです。

加入しておくべきは「運送業者貨物賠償責任保険」

ではこれから引越しサービスを始めようとする不用品回収業者は、具体的にどのような保険に加入するべきなのでしょうか。それはすなわち運送業者貨物賠償責任保険です。

補償してくれる場合・補償してくれない場合

この保険が補償してくれるのは、運送等の業務中に荷物に発生した物理的損害に対する賠償責任です。つまり走行中や車上仮置き中、積み込み・荷下ろし中といった輸送の過程や、梱包・開梱作業中やタグ貼り等の流通加工中といった保管の過程などに生じる荷物の破損や紛失を補償してくれるのです。

また破損や紛失以外にも水濡れや盗難、輸送車両の衝突や横転などの事故時、火災や爆発などについても補償対象となる場合があります。ただし下表のような荷物は保険の対象にならなかったり、補償の範囲が制限される場合があります。

対象外 貨幣・紙幣、貴金属(金・銀・プラチナ)、有価証券、新株券
法令の規定や公序良俗に違反するもの
輸送用具自体およびトレーラーシャーシ・コンテナ
補償範囲制限対象 青果物や生鮮食料品、植物
ばら積み貨物
美術品・書画・骨董品・宝玉石
生きた動物(家畜・活魚介類含む)
冷凍・冷蔵・保冷状態のもの、定温管理が必要なもの

なお補償の内容は契約や保険会社によって違いがあります。また保険の支払い限度額や、損害額に対する補償のうち補償を受けられる方が自己負担する金額である免責金額についても、契約や保険会社によって変わります。詳細は各保険会社に問い合わせるようにしてください。

補償を受けるほど保険料は高くなる

右肩上がりの棒グラフ

気になる保険料ですが、これは契約内容によって決定され、初年度以降は損害率による料率調整によって保険料の見直しが行われます。簡単に言えば補償を受ければ受けるほど保険料が高くなっていくのです。

実際に引越しでトラブルを起きた時、引越し業者が保険の適用を避けようとするのは、この保険料のシステムが原因です。そのため保険の適用で保険料が高くなるぶんの金額を、担当した従業員自身に負担させる制度を採用している企業も存在します。大手引越し会社の中にはこの制度の運用を巡って従業員から訴訟を起こされ、最終的に制度の廃止を決定したというところもあります。

このように運送業者貨物賠償責任保険の保険料はそのままコストになり、補償を受けるほどそのコストも増大していきます。これから引越しサービスを始めようという不用品回収業者は、このコストに対してどう考えるかについてもあらかじめ検討しておく必要があるでしょう。

依頼者に入ってもらう「引越荷物運送保険」

運送業者貨物賠償責任保険の保険料を抑えるための手段として、依頼者に任意で入ってもらう引越荷物運送保険という保険もあります。補償内容は基本的に運送業者貨物賠償責任保険と同じですが、保険加入者が依頼者であるという点に大きな違いがあります。そのため保険料を不用品回収業者側が負担する必要がなくなり、万が一保険の適用があっても保険料の上昇などが起きる心配もありません。

ただし、保険会社や契約によって変わるものの、保険料は数千円〜数万円と安くはありません。依頼者からすれば運送業者貨物賠償責任保険もあるため、、わざわざ加入しなくてもいいと考える人も少なくありません。

そろばん

しかし業者からすれば自社のコストが抑えられるうえに、万が一の時に気持ちの良い対応ができたり、従業員を守れたりするわけですから、加入してもらうメリットは大きいと言えます。そのため場合によっては全額もしくは半額を引越し料金から値引きする約束で、引越荷物運送保険に加入してもらうというのも選択肢の一つではないでしょうか。

まとめ

引越しサービスは、少なからず荷物の破損・紛失などのリスクと隣り合わせです。もちろんそれらが起きなければ、それに越したことはありません。しかしもし起きた時にどのような対応をしたいのか、するべきだと考えるのかによっては、あらかじめ保険に入っておく必要があるでしょう。

そのため引越しサービス導入の際は、保険に入るべきかどうかも検討項目に加えておくことをおすすめします。