警告

便利屋業を営んでいれば、実に様々な依頼が舞い込んできます。その中には「知らない人ばかりの結婚式に招待されたので、付き添いで来て欲しい」「飲み会の誘いを断りたいから、職場の上司を装って電話をかけてきて欲しい」といった一風変わったものも含まれます。

そうした依頼の大半は基本的にはなんの問題もなく対応できるものです。しかし引き受けるとややこしい依頼もないわけではありません。そうした依頼を引き受けてしまうと、コストに見合わない仕事になってしまったり、場合によっては法的なトラブルに巻き込まれたりするリスクも生じます。

面倒な事態を回避するためには、依頼を受ける前の段階で「この依頼はややこしくなりそうだから断っておこう」という判断をする必要があります。こうした判断能力を養うために、ここでは具体的なややこしい依頼の例をあげながら、どのような点に注意しなければならないかを解説します。

仕事内容が変わったら、必要な許可・届出にご用心

恋愛相談がいつのまにか依頼者宅の清掃に

依頼内容は「恋人を作るための方法を教えてください」。依頼主は女性で、生まれてから20数年間、一度も恋人ができたことがないとのことでした。20歳を過ぎるまでは自分の趣味に夢中で誰かと付き合うのにも興味がありませんでしたが、社会人になって周りがどんどん結婚し、幸せそうになっていくのを見て焦り始め、「なんとかしなければ」と思ったそうです。

しかしなんとかするにしても、何をどうすれば恋人ができるのかがわからず、かといって20歳を過ぎてからそんなことを友人に相談するのも気恥ずかしく、依頼主はすがりつくように便利屋に電話をしたのです。

担当者が自宅に話を伺いに行ったところ、なんと自宅はまるでゴミ屋敷のように散らかっており、足の踏み場もないという状況でした。担当者は始め依頼主からの恋愛相談を聞いていましたが、あまりの惨状に「これだけ部屋が汚かったら、恋人ができても部屋に呼べませんよ」と忠告。すると彼女は「片付けたって、来てくれる男性がいないんだから意味ありませんよ」と反論します。それを聞いた担当者は、クレームを覚悟で次のように言いました。

女性

「よく考えてみてください。こんな部屋に住んでいる女の人と、お付き合いしたいと思う男性がいますか?いませんよ。部屋に来てくれる男性ができてから掃除をするんですか?じゃあそれまで自分が汚い部屋に住んでいることを黙っているんですか?それは誠実な態度とは言えませんよね。やっぱりそんな女性と付き合いたいと思う男性もいないと思います。ね、片付けましょう?私も手伝いますから」

そう言われて自分が現状に甘んじようとしていたことに気づいた女性は、「わかりました。よろしくお願いします」と担当者と一緒に部屋の片付けをすることを承諾しました。

どのような仕事にどのような許可・届出が必要かを把握する

リスト

この依頼での問題は、単なる恋愛相談だったはずの依頼が、途中から別の内容に変わっている点です。この際の部屋の片付けが、衣類などを整理整頓したり、ゴミなどをゴミ袋に入れたりするだけであれば、問題はありません。しかし例えば衣類や書籍、家具や家電の買取をするとなれば古物商許可が必要ですし、ゴミとして引き取るのであれば一般廃棄物収集運搬業許可が必要になります。

こうした必要な許可や届出を把握しないまま、仕事を引き受けたり、提案したりすると、無許可業者とみなされるリスクが生じます。そのため現場の担当者には、あらかじめ自分たちがどのような仕事ならやっていいのかを理解しておいてもらわなければなりません。

なお、以下の記事では便利屋の仕事に必要になる許可や届出、資格についてまとめています。参考にしてください。

【サービス別】便利屋が知っておくべき許可・届出・資格【まとめ】

個人的な事情に関わりすぎるのはご用心

「訳あり」の冷蔵庫運搬

古びた冷蔵庫

依頼主はマンションのオーナーで、その内容は「退去した住人の部屋の冷蔵庫を、住人の引越し先に運搬して欲しい」というものでした。そこで便利屋側は、マンションから搬出するための作業料金と、貨物軽自動車運送事業の届出を出していたので、マンションから引越し先への運搬料金を見積もりとして提案しました。

すると依頼主は「料金は退去した住人から受け取ってくれ」と言います。事情を聞けば退去した住人はオーナーの親戚筋にあたる人物で、オーナーと仲が悪く、もう使えないような家具や家電をわざと置いて出て行ったのだとか。「だから嫌がらせに送りつけてやりたい。もし向こうが料金を払わなかったら、こちらで払うのでお願いします」と言うのです。

この話を聞き、担当者は依頼を断ることにしました。なぜならいくら料金を払ってもらったとしても、いざ冷蔵庫を送付先に運搬しても、それを受け取ってもらえない可能性が高かったからです。最悪の場合、依頼主と送付先の間で便利屋側が立ち往生してしまう可能性もあります。担当者はそうしたリスクを負うくらいなら断った方が良いと判断したのでした。

一人暮らしで受験勉強をする息子を元気づけて欲しい

中年の女性から「一人暮らしで受験勉強をする息子の話し相手になって、元気づけてやってほしい」という依頼がありました。しかし実際に息子の住所に行ってみると、彼はすでに社会人になっており、工業地帯にある工場で勤続5年目を迎えていました。事情を話してみると、息子は次のような話を担当者にしました。

工場で働く男性

「母は少し精神を病んでいて、いまだに僕が大学受験を目指して全寮制の予備校で勉強しているって思い込んでいたいんです。僕からも何度も『今は工場に勤めていて、毎日頑張ってるよ』と言うんですが、まるで聞いてない様子で『次の模試は頑張らなくちゃね』なんて言ってて……。本当は仕事を応援して欲しいんですが、母にはできるだけ安心していて欲しい。だから、申し訳ないんですが、引き受けたふりをしてもらってもいいでしょうか」

担当者は息子の気持ちを汲み取り、毎回依頼を受けるたびに「彼は勉強を頑張っていて、今度の模試はいい成績が取れそうだと話していましたよ」といった報告をするようにしました。

第三者が入るとややこしくなる問題かどうか?

この2つの例は、いずれもやや込み入った個人的な事情が絡んでいる依頼です。しかし前者の依頼では担当者が依頼を断り、後者の依頼では引き受けています。この時の判断基準は「第三者が入るとややこしくなる問題かどうか?」です。

前者は担当者が判断した通り、冷蔵庫をトラックに積んだ便利屋が依頼主と送付先の親戚との間で立ち往生してしまうリスクがあります。しかし後者に関しては息子の承諾を得ているため、大きな問題にはなりにくいと考えられます。したがって後者の依頼は、引き受けるリスクが小さいのです。

個人的な事情に立ち入る場合は、こうした想像を巡らせて、リスクの判断をする必要があります。

法的なグレーゾーンにはご用心

夜逃げ現場の不用品回収

夜逃げ

不動産管理会社から「夜逃げした部屋の不用品回収を頼みたい」という依頼がありました。言ってみると家財道具はほとんどそのまま残っており、リサイクルショップでも高い値段がつきそうな家具や家電もあります。

しかし担当者が搬出作業をしていると、夜逃げをした本人の弁護士だという人物がやってきて作業を今すぐやめるように忠告してきました。担当者が「ここの管理会社から依頼を受けているので、やめるわけにはいきません」と対応すると、その弁護士という人物は警察を呼び、警察までもが「窃盗罪で現行犯逮捕になるぞ」と言い出す事態になってしまいます。

担当者は不動産管理会社に連絡。作業を一旦中止するほかありませんでした。

「オレオレ詐欺」業者の事務所撤退作業

「緊急で引越しと不用品の回収をお願いしたい」という依頼を受け、現場に行ってみると、小さな事務所の移転と、それに伴う家具や家電の回収を依頼したいとのことでした。その場に居合わせた男たちの身なりを見る限り、どんな商売をしているかはわかりませんでしたが、深く聞く必要もなかったため、担当者は言われるがままに作業を行い、料金を受け取りました。

警察

しかしそれから1週間ほどして、警察が便利屋の事務所を訪ねてきました。話を聞くと、1週間前に回収を引き受けた男たちは「オレオレ詐欺」業者だったとのこと。しかも警察はなぜか便利屋を協力者だと見ており、「引越し先を言わないようなら、いつでも逮捕する用意がある」とまで言います。

もちろん便利屋は協力者などではなかったため、すぐに住所の情報を提供し、ことなきを得ましたが、警察への対応をしていたために、その時間帯に入っていた依頼を断らざるを得ませんでした。

「アウトローな人たち」に注意する

「オレオレ詐欺」業者はもちろん、夜逃げをする人も世間一般には「アウトロー」と言える人たちです。こうした人たちに関わる際は、無用な法的トラブルに巻き込まれないように注意しなければなりません。

例えば夜逃げで残された家財道具などは残置品と呼ばれ、賃貸借契約などで定めがあれば物件の所有者などの任意で取り扱うことができますが、そうでない場合は法的な手続きを踏んだうえで取り扱う必要があります。便利屋として残置品の買取などを行う場合は、こうした状況の確認をしておくことで、トラブルを回避できます。

また2つ目の例のように、後々に問題になりそうな依頼主については、作業後にメモを取るなどして警察からの協力の要請があった際に対応できるようにしておくのも大切です。そうすれば警察への対応にも余計な時間がかからず、業務への支障も最小限にできるでしょう。

まとめ

「この依頼はややこしくなるか?それともスムーズに解決できるか?」

この判断を正確に下すための勘は、一朝一夕に身につくものではありません。しかしここであげた「必要な許可・届出」「個人的な事情」「法的なグレーゾーン」にアンテナを張っておくだけでも、ややこしい依頼を受けてしまうリスクは抑えられるはずです。

余計な法的リスクを負ったり、必要以上に心身を疲弊させたりしないためにも、ややこしい依頼には注意しましょう。