金属スクラップ

「雑品スクラップ」とは一般的に、冷蔵庫・冷凍庫、エアコン、テレビ、洗濯機・衣類乾燥機の家電4品目をはじめとする使用済電子機器とそのほかの金属スクラップの混合物を指します。

不用品回収業者をはじめリユース店などでもこの雑品スクラップを扱う場面は少なくありませんが、実は2017年12月末以降取り扱いが難しくなり、ビジネスとして厳しい状況になると考えられています。ここではなぜ、どのように状況が変わり、今後既存の業者がどう対応するべきなのかを解説します。

INDEX
  1. 雑品スクラップの「有価物」「廃棄物」の境界線が明確に
    1. 廃棄物処理法における雑品スクラップ関連の改正内容
    2. 不用品回収業者やリユース店にも影響はある
  2. 不適切な「雑品スクラップ輸出」の取り締まりを法的に明確化
    1. バーゼル法における雑品スクラップ関連の改正内容
  3. 2017年8月、中国「雑品スクラップ輸入禁止」を表明
    1. 中国が環境問題解決に動いた
    2. 「雑品スクラップ輸入禁止」の影響
  4. 既存雑品スクラップ業者は「国内売り」と「手選別」で生き残れ
  5. 中国ルート閉鎖は一過性との見方も

雑品スクラップの「有価物」「廃棄物」の境界線が明確に

2017年6月に公布された廃棄物処理法の改正は、雑品スクラップにおける「有価物」「廃棄物」の境界線を明確にしました。というのも雑品スクラップはこれまで「有害だが有価物であるため、廃棄物処理法の適用外」とされてきたのです。

しかしこの雑品スクラップが海外に輸出されるにあたって、港湾や船舶上などで火災の原因となり、平成19年〜27年の間に海上で66件、廃棄物を保管しているヤードなど陸上で27件もの火災を起こしていました。これを問題視した環境省が今回対策として公布したのが「改正廃棄物処理法第17条の2」です。以下に全文を引用しておきましょう。

廃棄物処理法における雑品スクラップ関連の改正内容

(有害使用済機器の保管等)
第十七条の二 使用を終了し、収集された機器(廃棄物を除く。)のうち、その一部が原材料として相当程度の価値を有し、かつ、適正でない保管又は処分が行われた場合に人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるもの(以下この条及び第三十条第六号において「有害使用済機器」という。)の保管又は処分を業として行おうとする者(適正な有害使用済機器の保管を行うことができるものとして環境省令で定める者を除く。次項において「有害使用済機器保管等業者」という。)は、あらかじめ、環境省令で定めるところにより、その旨を当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事に届け出なければならない。その届け出た事項を変更しようとするときも、同様とする。

2 有害使用済機器保管等業者は、政令で定める有害使用済機器の保管及び処分に関する基準に従い、有害使用済機器の保管又は処分を行わなければならない。
3 次条第一項、第十九条第一項、第三項及び第四項、第十九条の三(第一号及び第三号を除く。)並びに第十九条の五第一項(第二号から第四号までを除く。)及び第二項の規定は、有害使用済機器の保管又は処分を業とする者について準用する。
4 環境大臣は、第一項の適正な有害使用済機器の保管を行うことができる者を定める環境省令を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、有害使用済機器になる前の機器を所管する大臣に協議しなければならない。
5 有害使用済機器になる前の機器を所管する大臣は、必要があると認めるときは、環境大臣に対し、第一項の適正な有害使用済機器の保管を行うことができる者を定める環境省令を定め、又はこれを変更することを求めることができる。
6 前各項に定めるもののほか、有害使用済機器の保管又は処分に関し必要な事項は、政令で定める。
引用元:環境省

この条文を簡潔にまとめると、「たとえ有価物であっても有害なもの(有害使用済機器)を保管・処分する場合は環境大臣に許可を得る必要がある。もし受けていない業者が保管や処分をビジネスとして行う場合は都道府県知事に届出が必要である」ということです。またこの「有害使用済機器」の判断基準は以下の4点にまとめられます。

1.使用が終了している機器である。
2.収集された機器である。
3.一部が原材料として相当程度の価値を持っている。
4.不適切に保管や処分が行われると人体や環境に被害が出る可能性がある。

不用品回収業者やリユース店にも影響はある

もちろんこれにはリユースできない家電4品目も含まれます。したがって今回の改正は、売り物にならない廃家電を抱える可能性がある不用品回収業者やリユース店にも十分な影響力を持つでしょう。

これまでまとめて処分しても雑品スクラップとしての価値があったため、ほとんど手間とコストはかかりませんでした。しかし有害使用済機器に該当する限り、正当な手続きで処理しなければならなくなったため、相応の手間とコストがかかるようになるからです。

不適切な「雑品スクラップ輸出」の取り締まりを法的に明確化

不適切な「雑品スクラップ輸出」の取り締まり

廃棄物処理法の改正に伴って、有害物質を含む廃棄物や再生資源などの貨物の輸出入を行う場合に適用される「バーゼル法」にも改正が加えられました。従来も告示によって規制対象について定めていましたが、法的な位置付けが曖昧で実効性が低かったため、不適切なルートで雑品スクラップが輸出され続けてきたからです。

そこで今回はバーゼル法そのものに改正を加え、不適切な輸出に対してより高い実効性を確保したのです。改正内容は以下の下線部分です。

バーゼル法における雑品スクラップ関連の改正内容

(定義等)
第二条 この法律において「特定有害廃棄物等」とは、次に掲げる物(船舶の航行に伴い生ずる廃棄物であって政令で定めるもの並びに放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)をいう。

一 条約附属書に掲げる処分作業(以下「処分」という。)を行うために輸出され、又は輸入される物であって、次のいずれかに該当するもの(条約第十一条に規定する二国間の、多数国間の又は地域的な協定又は取決め(以下「条約以外の協定等」という。)に基づきその輸出、輸入、運搬(これに伴う保管を含む。以下同じ。)及び処分について規制を行う必要がない物であって政令で定めるものを除く。)
イ 条約附属書に掲げる物のうち、条約附属書に掲げる有害な特性のいずれかを有するものであって、その処分の目的ごとに、かつ、輸出及び輸入の別に応じて環境省令で定めるもの
ロ 条約附属書に掲げる物
ハ 政令で定めるところにより、条約第三条1又は2の規定により我が国が条約の事務局へ通報した物
ニ 条約第三条3の規定により条約の事務局から通報された物であって、当該通報に係る地域を仕向地若しくは経由地とする輸出又は当該地域を原産地、船積地域若しくは経由地とする輸入に係るものとして環境省令で定めるもの
 条約の締約国である外国(以下このホにおいて「条約締約国」という。)において条約第一条1に規定する有害廃棄物とされている物であって、当該条約締約国を仕向地又は経由地とする輸出に係るものとして環境省令で定めるもの

二 条約以外の協定等に基づきその輸出、輸入、運搬及び処分について規制を行うことが必要な物であって政令で定めるもの
引用元:環境省

この改正により、「環境省令で定められているもの、または条約の締結国である外国で有害廃棄物とされているもの」は、バーゼル法に則った手続きやルートで輸出しなければならなくなりました。

したがってこれまでは「有害だが有価物である」という言い分でバーゼル法から逃れていた雑品スクラップも、バーゼル法基準の手続きやルートで輸出しなければならなくなったため、手間やコストがかさんでしまいます。廃棄物処理法の改正と同様、不用品回収業者やリユース店にも影響は及ぶでしょう。

2017年8月、中国「雑品スクラップ輸入禁止」を表明

禁止マーク

この状況にさらに追い討ちをかけたのが中国の動きです。2017年8月中国の環境保護省は「輸入廃棄物管理目録」を発表。その中で「固体廃棄物輸入禁止目録」を作成し、その中に廃電池・廃電気電子製品・廃家電などを含むいわゆる「雑品スクラップ」を記載しました。ここにリストアップされた品目は、2017年12月末以降の輸入禁止もしくは制限を行うとしています。

この目録発表の背景には第一に中国本国が自国の生産によって需要をまかないたいという意図があり、第二に各国からの雑品スクラップの不適正輸入による、国内環境悪化があります。

中国が環境問題解決に動いた

従来は「経済発展第一」で突き進んできた中国ですが、2016年に公開された映画『Plastic China(プラスチック・チャイナ』の反響を受けて急速に環境問題の解決に動き始めました。『Plastic China』は世界中の廃プラスチックが中国に集められており、劣悪な環境でゴミのリサイクル作業に従事する子供たちがいるという現状を明らかにしたドキュメンタリー作品となっています。現在中国では放映禁止となっていることからも、中国当局が受けた衝撃も大きかったと考えられます。

2017年8月の発表後には廃プラスチックや金属スクラップなどの輸入許可を持っている企業に対し、徹底的な査察を実行。環境面に配慮した適切な処理を行っていない企業を次々と摘発し、営業停止などを言い渡しています。罰則を受けた企業のうち87%が廃プラスチック業、27%が金属関連業。規制の発端ともいえる廃プラスチックだけでなく、雑品スクラップの主な価値である金属スクラップにも規制の手は伸びています。

「雑品スクラップ輸入禁止」の影響

2016年の対中国の雑品スクラップ輸出国では、日本はダントツの1位でした(1,867千トン。2位は中近東で796千トン)。しかし今回の規制により、「手間のかからないスクラップは国内へ、手間のかかるスクラップは中国へ」という従来のルートは閉ざされてしまいました。中国への輸出をメインに事業を展開していた雑品スクラップ業者にとっては厳しい状況です。

不用品回収業者やリユース店にとっても他人事ではありません。「売り物にならない買取品」の処分コストが膨らむからです。そうなれば買取も慎重にならざるを得ませんが、慎重になりすぎれば顧客の利便性が低下し、集客力を失ってしまいます。

既存雑品スクラップ業者は「国内売り」と「手選別」で生き残れ

しかし既存の雑品スクラップ業者は「いつかはやってくる展開だった」という共通見解を持っており、すでに対応し始めているところも少なくありません。対策としては大きく2つ。

国内の販売ルート

第一の対策は「国内売り」です。国内向けの商材の仕入れに力を入れるほか、輸出向け商材の海外需要低下による価格低下により、国内需要の向上が見込めるとされています。したがって国内の販売ルート開拓に力を入れるべきでしょう。

第二の対策は戦後日本が強みにしていた手選別です。使用済電子機器とそのほかの金属スクラップの混合物であるところの雑品スクラップから、市場価値のある鉄や銅、レアメタルを取り出し、単一素材として販売するのです。確かに手間もコストもかかりますが、こうすれば純粋な有価物として取り扱えるようになります。

中国ルート閉鎖は一過性との見方も

ただ今回の中国ルート閉鎖は一過性の規制で終わるという見方もあります。なぜなら前述した通り、中国国内では大量の失業者が生まれているからです。これに耐えかねた当局が規制を緩和するのではないか、というわけです。

しかし同時に「一過性どころか、拡大していくだろう」という見方もあります。なぜなら2011年から2016年にかけて中国の雑品スクラップ輸入量は毎年減少しており、そこに今回の規制強化で人手不足と人件費高騰が重なっているからです。このように考えると、今後再び中国ルートが回復するのは難しいだろうというわけです。

どちらにせよ事態はまだ動き出したばかり。今後も状況を見守っていかなければなりません。もちろん関係各社は指をくわえて見ているのではなく、脱中国ルートの模索に動き出す必要があるでしょう。