判決

不用品回収業を営むにあたって重要になる「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法、廃掃法)」は、度重なる改正や通知などによって理解が非常に難しい法律として知られています。しかし「何が法律的に正しいのか」をはっきりと理解しないまま、迷いながら営業を続けるのは効率面でも精神面でも良くありません。

ここでは、不用品回収業者が迷いなく営業するための知識とも言える廃棄物処理法関連の重要な判例を、裁判になった経緯や判決内容、そして不用品回収業者が押さえておきたいポイントに分けて解説します。

INDEX
  1. 総合判断説が初登場「おから裁判」
    1. どうして裁判が起きたのか?
    2. 司法が下した判決は?
    3. 不用品回収業者が押さえておきたいポイント
  2. 値段がつかなくても有用物「混合再生砂裁判」
    1. どうして裁判が起きたのか?
    2. 司法が下した判決は?
    3. 不用品回収業者が押さえておきたいポイント
  3. 行政の判断ミスが国家賠償に「建設汚泥改良土裁判」
    1. どうして裁判が起きたのか?
    2. 司法が下した判決は?
    3. 不用品回収業者が押さえておきたいポイント
  4. 様々な角度から「廃棄物」と「有価物」を見よう

総合判断説が初登場「おから裁判」

豆腐を作る際に発生する「おから」。これが産業廃棄物なのか、あるいは有価物なのかが争点となり、平成11年の3月10日に判決が出た裁判です。のちに有価物と廃棄物を判断するスタンダードとなった「総合判断説」が初めて明示された裁判としても知られています。

どうして裁判が起きたのか?

ある飼料・肥料製造業者がある豆腐製造業者から、飼料・肥料の原料としておからを引き取っていました。飼料・肥料製造業者は豆腐製造業者からおからの引き取りに伴って処理料金を徴収していたほか、処理能力を超えて引き取っていたために腐敗による悪臭が発生し、近隣からの苦情も発生していました。

こうした経緯で裁判が起こり、「おからは豆腐製造業者が排出する産業廃棄物なのか」あるいは「飼料・肥料の原料として価値のある有価物なのか」が争点になりました。前者の判断が下されれば、飼料・肥料製造業者は産業廃棄物収集運搬業許可および処分業許可を持たない無許可営業とみなされますし、後者の判断が下されればおとがめなしとなります。

司法が下した判決は?

判決は地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所ともに「おからは産業廃棄物である」でした。

平成11年3月10日に下された最高裁判決によれば、おからは非常に腐敗しやすく、裁判が起きた当時は食用などに有償で取引されているのわずかな量で、大部分は無償で牧畜業者等に引き渡されているか、有料で廃棄物処理業者に処理を委託されていました。小さな豆腐製造業者の中には一般廃棄物と同じ焼却という形で処理しているところもあるなど、とても有価物として扱われているとは言い難い状況だったのです。

最高裁はこうした状況を踏まえたうえで、不要物すなわち「自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物」に該当するかどうかは「その物の性状」「排出の状况」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「事業者の意思等」から総合的に判断すべきであるとして、おから=産業廃棄物と結論づけています。

その結果高等裁判所での判決を不服とした弁護人谷口茂高氏の上告は棄却され、飼料・肥料製造業者は無許可営業とみなされたのです。

不用品回収業者が押さえておきたいポイント

おから

おから裁判で最も重要なのは、最高裁判所が有価物か否かの判断基準として「その物の性状」「排出の状况」「通常の取扱い形態」「取引価値の有無」「事業者の意思等」という5つの基準を持ち出し、有価物か否かはこれらによる総合的な判断によって下されると明示したことです(総合判断説)。

そのため「その物の性状」「排出の状况」「通常の取扱い形態」などが有価物と言えるものでも、取引価値が全くなかったり、事業者が廃棄物と認識して処分していたりすれば、それは有価物ではない(不要物、廃棄物である)と判断される可能性が示されたのです。

逆にある取引で産業廃棄物と判断されても、別の取引で有価物と判断される可能性もあります。したがって例えばこのおから裁判を受けて食用などに有償で取引されているおからまで「産業廃棄物だ!」と糾弾したとしても、「そのおからは産業廃棄物ではなく、有価物である」という判断が成り立つわけです。

この裁判の判決は不用品回収業者にとって、有価物と廃棄物の判断を難しくした判決だと言うことができます。しかし同時に一律に判断が下されないということは、ケースによっては有価物として取り扱えるということでもあります。そのためこの裁判の判決を有価物の定義を広げ、柔軟な対応を可能にした判決だと言うこともできます。

値段がつかなくても有用物「混合再生砂裁判」

廃棄物であるガラスくずやガレキなどを粉砕して作った混合再生砂を販売せずに自社で利用したり、無償で譲ったりしていた場合、この混合再生砂は廃棄物なのか否かが争われた裁判です。この裁判ではたとえ値段がつかない場合でも廃棄物ではない有用物と判断されるケースがあることが示されました。

どうして裁判が起きたのか?

住宅用建築物等の解体や廃棄物処理などを生業とする建設会社が、中間処理業者に処理料金を支払って廃棄物であるガラスくずやガレキなどを引き渡して混合再生砂とし、自社で利用したり無償で譲渡したりしていました。

この建設会社が廃棄物を利用して混合再生砂を作っていることから、行政に対して再生事業者登録を申請したところ、行政はこれを拒否。その理由は「再生品の販売実績がないため、同社の混合再生砂は廃棄物に該当するから」というものでした。建設会社はこの対応を不服として、行政を相手に登録拒否処分の取り消しを求めて裁判を起こしました。

争点は自社事業から出た廃棄物から作られた再生品を、自社で利用したり無償で譲渡したりしていた場合、その再生品は廃棄物なのか否かという点です。廃棄物なのであれば行政の対応は正しかったことになり、廃棄物でなく有価物や有用物なのであれば対応が間違っていたことになります。

司法が下した判決は?

判決は地方裁判所、高等裁判所ともに「混合再生砂は廃棄物ではない」でした。理由は大きく3つあります。

一つ目は本件の混合再生砂が廃棄物の再生の定義、すなわち「廃棄物に必要な操作を加えてこれを廃棄物以外の有用物にすること」を満たしているから。二つ目の理由は本件の混合再生砂が土壌の環境基準に適合し、汚染物質等の基準もクリアしているから。

そして三つ目の理由は廃棄物の再生事業の目的が再生事業者が儲けることになく、再生のための加工によって廃棄物の量を減らすことにあるからです。そのため自社で利用したり無償で譲渡したりして再生品の販売実績がないからといって廃棄物であるとは判断できないというわけです。

結果行政側の廃棄物再生事業者登録申請についての登録拒否処分の取り消しが命じられ、訴訟費用についても行政が負担することとなりました。

不用品回収業者が押さえておきたいポイント

解体現場

混合再生砂裁判で重要なポイントは再生品として市場価値を持たなくても、つまり総合判断説の5つの基準のうち「取引価値の有無」が無いとされていても、有価物・有用物として判断されたという点です。その判断基準として示されたのが、再生品としての定義を満たしているのか、再生品としての品質や性状を満たしているのか、そして廃棄物再生事業の目的にかなっているかという3つの基準でした。

したがってこの裁判は総合判断説の応用例と言えるでしょう。不用品回収業者としては、わかりやすい「取引価値の有無」などに囚われることなく、より大局的な視点から有価物と廃棄物を判断するケーススタディとなっています。

行政の判断ミスが国家賠償に「建設汚泥改良土裁判」

産業廃棄物処理業者が行政から下された事業停止処分を違法だとして、国家賠償を請求した裁判です。この裁判では行政でも廃棄物かどうかの判断をするのは難しいこと、そして判断ミスをすれば賠償責任も生じることが示されました。

どうして裁判が起きたのか?

ある建設会社が自社の事業から出た建設汚泥を、処理料金を支払って中間処理業者に渡し、改良土として第三者に有償で売却していました。

これに対して行政は、第三者の手に渡るまでの運搬途中の改良土は性状から判断するに廃棄物であり、中間処理業者が運搬に際して法律に定められた処理委託契約書を締結しなかったとして、産業廃棄物処分業と収集運搬業の事業の全部停止10日間の処分を言い渡します。中間処理業者はこれを不服とし、処分の取り消しと国家賠償請求を求めて裁判を起こしました。

司法が下した判決は?

本件は「処分の取り消し」と「国家賠償請求」の2件に分けて裁判が行われましたが、前者では「改良土は廃棄物ではない」という判決が下されて、行政に処分取り消しが求められ、後者では「本件の行政の対応には過失がある」という判決が下されて、賠償金の支払いが命じられました。

「改良土は廃棄物ではない」という判決になったのは、建設汚泥は再利用ができる状態に加工されていたうえ、第三者に有償で売却できる状態になっていたため、本件の改良土は産業廃棄物ではないと判断されたからです。一方「本件の行政の対応には過失がある」という判決になったのは、以下の5点が理由でした。

1改良土は.外観から明らかに汚泥であると判断できるような性状ではなかった。
2.建設会社は「これは改良土である」と主張していた。
3.建設会社は弁護士を通じて汚泥だと判断した根拠を説明するよう二度も求めていた。
4.1~3のような状況であったにも関わらず、行政担当職員は汚泥かどうかを判断する適切な検査も行わないまま行政処分に踏み切った。
5.建設会社の改良土は販売によって利益が出ていたにもかかわらず、行政担当者は「その販売価格が他業者よりも安いという点も廃棄物に該当する」として行政処分の理由とした。

状況としてもっと慎重に行政処分を検討するべきであったのに、それを怠ったことが「過失」とされたのです。

不用品回収業者が押さえておきたいポイント

作業スタッフ

建設汚泥改良土裁判のポイントは、行政でも廃棄物かどうかの判断が難しいという点と判断ミスをすれば賠償責任にもつながるという点です。これは仮に行政から処分を言い渡されても、不服を申し立てる十分な根拠があるのなら訴訟を起こす価値があるということ、そのような対応を可能にするためにも再生事業を行う側も品質管理や検査などを前もって実施しておくべきだということです。

不用品回収業者としては、こうしたケースの収集運搬を担当する場合、取引相手がこういったトラブル予防策を講じているかを事前に確認おくことで、自分の身を守るようにしましょう。

様々な角度から「廃棄物」と「有価物」を見よう

ここで紹介した3つの判例は、どれも廃棄物と有価物を様々な角度から検証して判断しています。例えば総合判断説の5つの判断基準の中でも「取引価値の有無」や「通常の取扱い形態」は比較的わかりやすいですが、これらだけで判断をすると行政処分を受ける危険や、ビジネスチャンスを逃す可能性があります。ここで挙げた判例をしっかりと理解することで、より多角的な判断能力を身につけておきましょう。