不用品回収業者の回収のやり方について○×で判定する男性。

2013年の法改正以降、数は減少しているものの、いまだに「押し買い」と判断されて行政からの指導や処分を受ける不用品回収業者があとを絶ちませんが、不用品回収業を営んでいる人の中には「うちは押し買いなんてしていないから大丈夫」と、行政の指導や処分を受ける業者を対岸の火事と考えている人もいるのではないでしょうか。

しかし押し買いかどうかを判断するのは、あくまで回収の依頼者であり、依頼者から報告を受けた行政です。不用品回収業者からすれば問題のない対応でも、第三者からすれば押し買いになるかもしれません。

ここでは2015年と2018年に押し買い行為が摘発された不用品回収業者の実態を紹介しながら、それをもとに押し買いと誤解されないための4つのルールを解説します。

INDEX
  1. 「押し買い」で摘発された不用品回収業者の実態
    1. 事例1:株式会社ランドの場合
    2. 事例2:株式会社リアライズと合同会社ROUND TWOの場合
    3. 事例からわかる「2つの問題点」
  2. 「押し買い」と誤解されないための4つのルール
    1. 最初の段階で「素性」をはっきり伝える
    2. 「○○ありませんか?」ではなく、「○○の買取もやってます」
    3. 「書面」に必要な記載を把握しておく
    4. 接客を通じて「信頼関係」を築く
  3. ルールを守っていれば「押し買い」にはならない

「押し買い」で摘発された不用品回収業者の実態

不用品回収業者のように消費者の自宅に訪問して物品を買い取る取引を「訪問購入」と呼びます。これ自体は法律的に何の問題もありませんが、消費者から無理に物品を買い取る「押し買い」になると、特定商取引法違反として行政から処分や指導を受けることになります。以下では実際に行政から押し買いだと判断された業者の例を、2つ紹介します。

事例1:株式会社ランドの場合

東京に本拠地を置いていた株式会社ランドは2015年3月20日、消費者庁から業務改善の指示を受けています。

同社は「スピード買取.jp」、「着も乃屋」、「宝飾倶楽部」などの屋号を掲げて、インターネットや新聞、チラシなどを使って広告を出し、依頼者からの電話などを受けて出張買取を行うという、一般的な不用品回収業者と同じような事業を行なっていました。しかし消費者庁には依頼者から多くの苦情が寄せられていました。以下の5点は、同社が消費者庁から「違反行為」とされたものです。

・依頼者宅に訪問してから、電話などで査定依頼のあった物品以外(主に貴金属)の勧誘を行なっていた。
・依頼者に渡した書面に合計の買取価格しか記載していなかった。
・依頼者に渡した書面に買い取った物品の特徴を記載していなかった。
・クーリング・オフの期間中は物品を引き渡す必要がないという説明をしていなかった。
・「何かないですか」「他にもあるでしょう」など依頼者が迷惑を感じるようなやり方で勧誘を行なっていた。

消費者庁のレポートによれば、株式会社ランドの従業員は長い時間をかけて着物や切手などの査定をしながら、出し抜けに「貴金属はありませんか」などとしつこく貴金属を出すよう要求したり、依頼者が「売るつもりはない」と言っているにもかかわらず「今日買い取って帰らないと、上司に怒られる」などと言って半ば無理やり買取を成立させたりしています。

その結果消費者庁に苦情が寄せられ、上記のような業務形態を改善するよう指示を受けたのです。

事例2:株式会社リアライズと合同会社ROUND TWOの場合

札幌の街並み。

北海道や九州を中心に事業を展開していた株式会社リアライズと関東を中心に事業を展開していた合同会社ROUND TWOは2018年3月23日、消費者庁から3ヶ月の業務停止命令と業務改善の指示を受けています。同庁はこの2社を事実上一体の事業者と判断し、同時に処分と指導を行ないました。

この2社は委託のコールセンターを通じて電話の営業を行い、訪問の約束を取り付けたうえで出張買取に向かうという事業を行なっていましたが、株式会社ランドと同様に依頼者から多くの苦情が寄せられていました。両者が消費者庁から違反行為と見なされたのは、以下の4点です。

・リアライズ社はコールセンターに「リアライズ」ではなく「リサイクルワン」という屋号を名乗らせ、勧誘前に自社の名前を明らかにしていなかった。
・両社ともに、「靴や服」に関しての勧誘を行って訪問の約束を取り付けたにもかかわらず、訪問後に貴金属についての勧誘を行っていた。
・両社ともに、依頼者に交付する書面に、物品の買取価格、担当者の氏名、物品の特徴を記載していなかった。
・両社ともに、クーリング・オフの期間中は物品を引き渡す必要がないという説明をしていなかった。

2社について寄せられた苦情は、2016年4月以降で160件にもおよび、その大半は高齢女性が占めていました。

例えばリアライズ社の従業員は、電話の営業に対して「うちはブランド品とかはありません。普通に子供服や靴くらいしかないです」と伝えていた依頼者の自宅に訪問し、挨拶をするなり「奥さん、指輪とかネックレスとかの貴金属はないと。1個や2個でもいいので出してください。手ぶらでは帰れない」などと言い、結果的に貴金属の買取契約をしています。

ROUND TWO社の従業員も依頼のあった衣類の査定後に、頼まれてもいないのに依頼者宅の室内にあった貴金属を指差して「こういった物を今まで売ったことはありますか」「他にないの、記念硬貨でもいいですよ」などと勧誘を開始し、買取契約をとりつけています。これらはいずれも押し買いに該当する勧誘方法です。

事例からわかる「2つの問題点」

これら事例からは以下の2つの問題点が浮かび上がってきます。

1.いずれの業者も、複数の違反行為を行なっていた

ランド社は4つ、リアライズ社は4つ、ROUND TWO社は3つの違反行為を消費者庁から指摘されています。もちろん何か1つでも違反行為があれば、消費者庁からの処分や指導を受ける可能性はありますが、その数が増えれば増えるほど消費者庁の目に止まる可能性も高くなります。そのため違反行為が発生しないよう、組織全体で徹底する必要があります。

2.いずれの業者も、依頼者に対して明らかに悪い印象を与えている

ランド社について消費者庁に寄せられた情報の中には、依頼者の「早く帰って欲しくて売ることにした」といった声もあります。リアライズ社とROUND TWO社についても、前述のような勧誘方法をしていれば悪い印象を与えている可能性は十分あります。

たとえ法律上の違反行為をしていても、依頼者が業者に対して良い印象を持っていれば、買取が成立してから消費者庁に苦情を寄せるという行動にはつながらないでしょう。逆に言えば本来法律上特に問題のない言動でも、依頼者に悪い印象を持たれてしまうと、違法行為として報告されてしまう可能性があるということでもあります。

したがって不用品回収業者を含めた訪問購入を行う業者は、依頼者が業者に対して抱く印象にも注意を払う必要があるのです。

「押し買い」と誤解されないための4つのルール

押し買い業者に誤解されないための4つのルールを教えてくれる女性。

以下では前述した2つの問題点を踏まえたうえで、これらを解消し、不用品回収業者が「押し買いだ」と誤解されないための4つのルールを解説します。

最初の段階で「素性」をはっきり伝える

「素性を偽る」もしくは「素性を伝えない」というのが、行政から処分や指導を受ける業者の常套手段の一つです。これには2つの理由が考えられます。ひとつは特定商取引法のなかで、訪問購入の際には以下の3点を伝えるよう決められているからです。

1.事業者の氏名(名称)
2.買取のために勧誘していること
3.どんな物品を買い取ろうとしているか

もうひとつは、こうした情報を伝えない不用品回収業者に対して依頼者が怪しいと感じ、「もしかしたら騙されてるのでは」「押し買いだったのでは」と不安に思うからです。結果買取価格や受け取った書面についても不信感を持たれてしまい、消費者庁への報告につながるというわけです。

このような事態を防ぐには、電話などでのやり取りの段階と訪問した直後の段階で、不用品回収業者としての素性をはっきりと伝えるほかありません。そうして依頼者の不安を解消しておくことが、誤解の可能性を下げてくれます。

「○○ありませんか?」ではなく、「○○の買取もやってます」

「貴金属はありませんか」
「今日買い取って帰らないと、上司に怒られる」
「奥さん、指輪とかネックレスとかの貴金属はないと。1個や2個でもいいので出してください。手ぶらでは帰れない」

たとえ不用品回収業者にその気がなくても、こうした言い方は特定商取引法が禁止する「不招請勧誘(頼んでもいないのに買取を申し出る)」「再勧誘(断っているのに勧誘を続ける)」だと判断されてしまいます。

そのため事前に依頼を受けていた物品以外の買取を提案する際は、あくまで「○○の買取もやっています」と事実だけを伝えるようにしましょう。もちろん相手が「○○はありません」「大丈夫です」と言った場合は、「かしこまりました。またよろしくお願いします」などと潔く引き下がるようにします。これを訪問購入を担当する従業員全てに徹底しておけば、不招請勧誘や再勧誘による苦情や行政からの違反行為認定も受けずに済むはずです。

「書面」に必要な記載を把握しておく

契約の書面を交わす不用品回収業者と依頼者夫妻。

特定商取引法では、不用品回収業者を含む訪問購入を行う業者は、契約時に以下の14点を記載した書面を渡すよう定められています。

1.どんな物品を買い取るのか
2.いくらで買い取るのか
3.いつ、どんな方法で支払いをするのか
4.いつまでに、どうやって物品を引き渡すのか
5.クーリング・オフについての説明
6.特定商取引法第58条の15に定められた「物品の引渡しの拒絶」に関する説明
7.事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人の場合は代表者の氏名
8.契約の申込み又は締結の担当者の氏名
9.契約の申込み又は締結の年月日
10.物品の名称
11.物品の特徴(状態など)
12.物品またはその附属品に商標、製造者名若しくは販売者名が書かれているときや、型式があるときは、商標、製造者名もしくは販売者名または型式
13.契約の解除に関する決まりがあるときには、その内容
14.そのほかに特約があるときには、その内容

このルールについてはあらかじめ書面のフォーマットを作成しておき、担当者が空欄を埋めるだけで完成するようにしておけば、簡単に守ることができます。なお、書面については複写できるようにしておき、後日問い合わせなどがあった場合に対応できるようにしておきましょう。

接客を通じて「信頼関係」を築く

特定商取引法では不招請勧誘や再勧誘のほかにも、1万円の価値があるものを1,000円で買い取ったり、「手ぶらでは帰れない」「交通費がかかってるんだから」などと言って困惑させたりする行為も禁止しています。こうした行為は法律的な観点からも行うべきではありませんが、「依頼者に対して悪い印象を与えない」という観点からも行うべきではありません。

不用品回収業者にまつわる法律は複雑なものも多いため、気をつけていても不備が生じる可能性がゼロになることはありません。したがって押し買い業者だと誤解されないためには、接客を通じて依頼者との間に信頼関係を築く必要があるのです。信頼関係があれば依頼者がこちらの不備を行政に報告する可能性も下がりますし、行政から処分や指導が行われる可能性も下がります。もちろん法律とは関係のないクレームを防ぐことにもつながります。

したがって不用品回収業者は、質の高い接客を従業員に教育必要があるのです。

ルールを守っていれば「押し買い」にはならない

ここで解説した「4つのルール」を守っていれば、違反行為の数も減り、依頼者に悪い印象を与える可能性も抑えられます。そうなれば、依頼者に押し買いと誤解されて消費者庁に報告される可能性も下がるでしょう。

確かに従業員全員にルールを徹底させるのには、時間も労力もかかります。しかしそれが結果的に効率よく不用品回収業を営むことにつながるのです。4つのルールのうち、できることから始めて、最終的には4つ全てを実践できるようになりましょう。