引越し事業を営むには、本来一般貨物自動車運送事業許可という許可を国土交通省から取得する必要があります。しかしこの許可は引越し事業用の車両が5台以上必要だったり、役員の法令試験合格が必須だったりと、様々な点でハードルの高い許可となっています。
しかし一方で、近年プチ引越し・ミニ引越しなどのサービス名で単身者向けの引越しサービスを提供する不用品回収業者が増えてきています。このサービスは引越しをする消費者にとってもメリットがあるため、今後徐々に増えてくる可能性も少なくありません。ここではこれからプチ引越しサービスを開始しようと検討している不用品回収業者のために、以下の4点について解説します。
・なぜプチ引越しが不用品回収業者のビジネスチャンスになっているのか。
・なぜプチ引越しが今後も増えていくのか。
・プチ引越しを事業としてスタートさせるために必要なものは何か。
・プチ引越しを事業としてスタートさせるうえでの注意点はどこにあるか。
「引越し時の不用品回収」をさらなるビジネスチャンスに
プチ引越しサービスで売上拡大
不用品回収は、依頼者にとって何かしらの転機の際に利用されることの多いサービスです。引越しはその典型例です。そのため不用品回収業を営んでいれば、引越しに伴って発生する不用品の回収を依頼されることが多くなります。
しかしここで引越し時の不用品回収だけを行なっていると、そこからの売上しか得られません。もちろんそれだけでもある程度の売上になる可能性はありますが、より大きな売上を得ようと思えば、引越し時の不用品回収をさらなるビジネスチャンスに発展させる必要があります。
その選択肢の一つがプチ引越し、すなわち単身者向けの引越しサービスです。つまり引越しに伴う不用品回収の依頼者に対して、「不用品回収と同時に引越しのサービスもご利用いただけますよ」といった形で、回収の後に控えている引越しも自社で請け負ってしまうのです。そうすれば1回の依頼に対して、不用品回収サービスと引越しサービス両方の売上を得ることができます。
依頼者側にとってのメリット
こうした不用品回収と引越しのワンストップサービスは、依頼者にとっても大きなメリットがあります。それはすなわち、コスト面でのメリットです。
確かに引越し業者にもこの2つのサービスを同時に提供しているところはあります。しかし引越し業者が提供する不用品回収サービスは、得てして自社とは別の不用品回収業者を手配する場合が多く、2社のマージンが発生する場合もあります。このようなケースでは依頼者の支払う料金は割高になってしまいます。
これに対して不用品回収業者が引越しサービスを提供すれば、不用品回収業者1社分の料金で済むため、依頼者は比較的安価にサービスを受けることができるのです。したがって、不用品回収業者によるプチ引越しサービスは、不用品回収業者と依頼者双方にとってメリットのある事業と言えるでしょう。
「不用品回収業者のプチ引越し」がこれから流行る理由
近年増加傾向にある不用品回収業者のプチ引越しですが、政府統計などを見るとこのビジネスモデルは今後も堅調に伸びていく可能性を秘めています。統計局が作成した「明日への統計」によれば、日本の人口1億2693万3000人のうち、単独世帯は一般世帯の34.6%に相当する1841万8千世帯にもなることがわかっています(2016年)。晩婚化が進む日本においては、この傾向は今後より強くなっていくと考えられます。
また同じく統計局の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、2017年の日本人の市区町村間移動者数は489万3581人、都道府県間移動者数は228万7310人、都道府県内移動者数は260万6271人となっており、いずれも2年ぶりの増加を示しています。
引用元: 統計局
確かに絶対数としての引越し数(人口移動)は減少傾向にあります。住民基本台帳人口移動報告の「図1 移動者数の推移(1954年〜2017年)」のグラフ(上図)を見れば、その事実は一目瞭然です。しかし今後日本全体で単身者が増えていく中で、転居を伴うような転職が増えていけば、そこには不用品回収業者によるプチ引越しの需要が生まれるはずです。
実際、求人情報・転職サイトのDODAが約2000人を対象に行った調査によれば、「あなたは「転職」について、今後もっと一般的になっていくと思いますか?」という質問に対して半数を超える55.7%の回答者が「一般的になる」と答えており、今後転居を伴う転職が増えていくことを示唆しています。
このように考えると、不用品回収業者のプチ引越しサービスというビジネスモデルは今後も堅調に伸びていく可能性があると言えるのです。
必要な許可は「貨物軽自動車運送事業の届出」
「でも引越し事業をする場合は、取得が難しい一般貨物自動車運送事業許可が必要なのでは?」と思うかもしれません。確かにその通りです。しかしそれは大きなトラックが必要な大荷物の引越しの話であって、軽トラックでも運び切れるような荷物の少ないプチ引越しにおいては、一般貨物自動車運送事業許可は不要です。
ただし軽トラックさえあればOKというわけではありません。プチ引越しを事業としてスタートさせる場合は、事前に開業地域の運輸支局に対して貨物軽自動車運送事業の届出を行う必要があります。
といっても貨物軽自動車運送事業の届出自体は非常に簡単で、不用品回収業者が知っておくべき「運送事業」のルールとは?でも説明していますが、手続き開始から終了までにかかる時間は長くても2〜3週間程度。届出が受理されれば、すぐにでもプチ引越しサービスをスタートさせられます。
サービスを始める上での注意点
プチ引越しサービスは不用品回収業者にとって、比較的気軽に始められる事業です。しかしだからといって、このサービスを不用品回収サービスの延長線上で考えていると、依頼者との間で大きなトラブルが起きたり、本業である不用品回収サービスにも悪影響が生じたりする可能性があります。
まず依頼者がもう使わない不用品を取り扱う不用品回収サービスと、依頼者がサービス終了後も使う荷物を取り扱うプチ引越しサービスの違いを、スタッフも含めてよく理解しておく必要があります。もし不用品と同じように依頼者の荷物を扱ってしまうと、傷や汚れがついてしまったり、梱包が大雑把になってしまったりするかもしれません。そうなれば、かなりの確率でクレームに発展します。
またプチ引越しサービスでは、スタッフは引越し前の住居はもちろん、引越し先の住居にも上がりこむことになります。そうなれば不用品回収サービスのときよりも一層清潔感に気を遣う必要があります。もしここで悪い印象を与えてしまうと、「あの不用品回収業者には清潔感がない」という口コミが広がる危険があり、最悪の場合不用品回収業者としての評判も悪くなってしまいます。
引越し業大手のアート引越センターはスタッフの靴下履き替えサービスを無料で提供していますが、ここにはこれから引越し先の住居で住み始める依頼者に、気持ちよく新生活をスタートしてもらいたいという思いが込められています。プチ引越しサービスでもこうした気遣いができれば、依頼者からの高い評価を得ることができるでしょう。
プチ引越しでビジネスチャンスを広げよう
プチ引越しは今後も手堅い需要が期待できるビジネスモデルです。「もっと事業や売上を拡大していきたい」という不用品回収業者にとって、有力な施策のひとつになってくれるはずです。
ただし運輸支局への届出やスタッフの教育、サービスレベルの向上など、不用品回収サービスにはない手続きや業務も必要になります。事業としての展開を検討する場合は、これらも踏まえたうえで着実に準備を進めていくようにしましょう。