特殊清掃業者

内閣府が作成している平成29年版高齢社会白書によれば、高齢者(65歳以上)のうち一人暮らし高齢者が占める割合は2015年で男性13.3%、女性21.1%となっており、この割合は2025年には男性14.6%、女性22.6%になり、2035年になると男性16.3%、女性23.4%になると推測されています。

また同じ資料によれば、一人暮らし高齢者のうち「孤独死を身近な問題だと感じる」と回答した人は全体の45.4%となっており、今後孤独死の数が増えていくであろうことが予測されます。

そうなると需要が高まるのが、特殊清掃の仕事です。特殊清掃とは孤独死を含む事件や事故、自殺などの現場で遺体の痕跡を取り除き、現状を回復するための清掃作業を指します。実際近年の孤独死などの増加にともなって特殊清掃業者の数が2013年から2015年の間に15倍超に増えたというデータもあります。

ここでは現在成長市場とも言える、この特殊清掃業の仕事内容や収益性などについて解説します。

INDEX
  1. 遺品清掃業とは何をする仕事なのか?
    1. 清掃作業
    2. 消臭・除菌
    3. リフォーム
    4. 遺品整理
    5. 害虫駆除
  2. 特殊清掃業とは「儲かる仕事」なのか?
    1. 心身ともにタフさが求められる
    2. 特殊清掃業は儲かるのか?
    3. 故人の想いは特殊清掃業者だけが伝えられる
  3. まとめ

遺品清掃業とは何をする仕事なのか?

清掃作業

特殊清掃の現場には遺体そのものは運び出されているものの、血液や体液、死後一定時間経過したことによる腐敗物などの汚れがそのまま残っています。遺体が腐敗すると筋肉による締め付けがなくなるため、体内の便や尿が漏れ出しているほか、内臓が液状化して破れた皮膚から流れ出してしまうからです。清掃作業では雑巾やブラシなどを使って床にこびりついた体液を落とすなどして原状回復をしていきます。

ただし故人がB・C型肝炎や、HIV、結核や下痢症などのウイルスを持っていた場合、その体液に手を触れたり、空気中に漂うウイルスが目などの粘膜についたりすると、作業員自身にも感染する恐れがあります。そのため特殊清掃の現場に入る際には、故人の感染症などについての情報のほか、防護服などの準備が必須となります。

消臭・除菌

特殊清掃の現場の汚れは、一見して落ちたように見えても臭いや菌はまだまだ残っています。そのため専用の薬剤を専用の機材(噴霧機など)を使用して室内に行き渡らせ、臭いや菌をできる限りなくしていきます。使用する薬剤は現場の環境や臭いの種類、消費者側の予算によっても変動するため、業者としては消臭や除菌に関する知識や経験、そして機材の準備が必要になります。

なお、薬剤によっては家具などの脱色や変色の原因となるため、原状回復後にそれらを利用する予定がある場合は、あらかじめマスキング処理を施すケースもあります。

リフォーム

床のリフォーム作業

血液、体液、腐敗物、糞尿などが床や壁紙などに染み込んでしまうと、見た目だけでなく臭いや精神面でもそのまま利用することはできなくなります。

例えばプラスチック製のユニットバスの中などで亡くなった場合、遺体のタンパク質がプラスチックに染み込み、臭いがとれないというケースもあります。このような場合はユニットバスそのものの交換が必要になります

このほかトイレのクッションフロアと呼ばれるビニール製の床も体液が染み込みやすいため、場合によっては一旦便器を外して床の下地板を替えたり、壁そのものを交換したりすることもあります。フローリングの床から建物のコンクリートにまで体液が流れ出している場合もあるため、その際は床材をはがしてコンクリートの消臭・除菌をする必要があります。

こうした作業が必要になるため、特殊清掃の仕事では規模の大小はあれどリフォームが必要になるケースが多くなります。そのため既存の特殊清掃業者でも、リフォームの技術やそのために必要な機材を揃えているところが少なくありません。

遺品整理

特殊清掃と同じくらいニーズが高まっている遺品整理ですが、通常の現場における遺品整理と特殊清掃の現場における遺品整理には大きな違いがあります。それはリサイクル・リユースできる遺品の数です。

というのも特殊清掃が必要な現場の遺品は、すでに強烈な異臭や汚れがこびりついており、大半がリサイクル・リユースできないのです。そのため一般廃棄物として適切な対応をする必要があります。

しかし大半がリサイクル・リユースできないからといって、全てをまとめて廃棄物として処理するわけにはいきません。なぜなら遺品の中には遺言書や預金通帳、思い出の品なども混じっている可能性があるからです。そうしたものを現場の中から見つけ出して遺族の元に届けるのも、特殊清掃業者の大切な仕事の一つです。

害虫駆除

遺体やその体液から発せられる死臭は、ハエやゴキブリなどを引き寄せます。集まってきたハエやゴキブリは卵を産み付け、たった数日のうちに大量に繁殖します。前述したように故人が感染症のウイルスなどを持っていると、これらの害虫が感染症の媒介者となり、ウイルスが外部にどんどん拡散してしまいます。

万が一充分に駆除できていないまま荷物の搬出などを行った場合でも、潜んでいた害虫が外部に拡散します。このような事態を防ぐために、特殊清掃業者は現場の害虫を一匹残らず駆除する必要があります。

特殊清掃業とは「儲かる仕事」なのか?

ここまで見てきたように、特殊清掃業は危険を伴う仕事であると同時に、専門的な知識や技術、ときには力仕事も必要とされる仕事です。これほどの労力がかかるのであれば、そのぶん利益も大きくなるように思えますが、果たして実際はどうなのでしょうか。以下では特殊清掃業という仕事の性質や収益性そしてやりがいについて紹介します。

心身ともにタフさが求められる

清掃作業や消臭・除菌などの仕事内容を見ても、特殊清掃業という仕事が肉体的にタフだということは充分伝わると思いますが、これ以外にも肉体的な辛さはまだまだあります。

例えば特殊清掃が必要になるタイミングは常に未定です。なぜなら孤独死や事件、事故などが発見されるのはいつになるかわからないからです。そのためしばしば深夜の緊急呼び出しに対応しなければなりません。

また現場の臭いは想像を絶するもので、少しの間作業するだけでも服や体、髪にもこびりついてしまいます。体についた臭いはシャワーなどで洗い流してもなくならず、服の臭いは洗濯しても落ちない場合があります。

これらは肉体的にも非常に辛いものですが、それが続くと精神的にも辛くなっていきます。いつ呼び出されるかわからないことによる不安感や、四六時中まとわりつく現場の臭いに気持ちが参ってしまい、この仕事を辞めてしまう人も少なくありません。

このように特殊清掃業は肉体面でも精神面でもタフさが求められる仕事なのです。

特殊清掃業は儲かるのか?

札束

心身ともにタフさが求められ、いわゆる他の人がやりたがらない仕事であるならば、それ相応の見返りは得られるのでしょうか。特殊清掃の費用は状況次第ではワンルームで50万円を超える場合もあります。確かにこうした費用だけを見ると特殊清掃の利益は大きいように見えます。しかし実際はそうでもないようです。

確かに特殊清掃のサービスが珍しかった頃は、一時期は月給が50〜100万円と言われていたこともありました。しかし近年の業者の増加によりサービス自体が一般化し、一社あたりの利益は目減りしています。そのため現在の月給の相場は20〜30万円ほどで、実績が少なくあまり多くの依頼を受けられない業者などはさらに低くなるでしょう。

以上のことから特殊清掃業は儲からないわけではないものの、だからといって収益が非常に大きいビジネスというわけでもない、というのが現状です。

故人の想いは特殊清掃業者だけが伝えられる

しかし特殊清掃の仕事は、一人暮らし高齢者の数が増え続ける日本においては必要不可欠なものになっていくでしょう。本来であれば孤独死は少なければ少ないほどいいわけですが、だからといって完全に防げるものでもないからです。

また遺品整理のところでも書いたように、孤独にたった一人で亡くなっていく人の想いを遺族などに伝えるという仕事も、特殊清掃業者の重要な役割の一つです。

遺品を通じて「一人で死なせてしまった」という後悔を深くする人もいれば、逆に遺品の手紙などを見て故人の生前の想いを知り、「一人で死なせてしまった」という自責の念から救われる人もいます。そうした人生の節目において、重要な役割を果たせるという点は、特殊清掃業のやりがいだと言えるでしょう。

まとめ

特殊清掃業の需要が今後拡大していくのは間違いないでしょう。しかし同時にこの仕事が心身ともにタフさを求められることも間違いありません。加えて知識や経験がないと対応できない現場も多く、安易な気持ちで参入すると利益を確保できないばかりか、感染症などを患うリスクすらあります。

そのため特殊清掃業をこれから始めようと考える場合は、大手の業者に数年務めるなどしてノウハウや経験を身につけたり、すでに十分な経験を積んだ人材を事業の責任者に配置したりといった、しっかりとした準備が必要になるでしょう。