笑顔で水道修理をする男性

独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するポータルサイト「J-Net21」が、2010年のアンケート調査をもとに行なった便利屋の市場調査によれば、便利屋サービスは利用率こそ低いものの、潜在需要は増していくとされています。

これは一人暮らし女性や一人暮らし高齢者からの需要を考えれば、同調査から8年経った2018年現在でも十分通用する見解でしょう。むしろ、2010年当時よりもさらに潜在需要は高まっている可能性もあります。

このような状況を受けて、便利屋を開業しようと考えている人も多いのではないでしょうか。しかし同調査の結論部分でも言及されている通り、便利屋が事業を軌道に乗せるためには幅広い層の関心をいかに喚起し、具体的なニーズに結び付けていくかが重要です。そのためには行き当たりばったりでの起業ではなく、しっかりとした準備が必要です。

では一体どのような準備が必要なのでしょうか。以下では8つの視点から、便利屋を開業する前に知っておくべきことを解説します。

INDEX
  1. ホームページは必要不可欠
  2. 信用は顔・口コミ・許認可で作る
  3. 実店舗は必要ない
  4. 「何でもやる」には許認可が必須
  5. 国家資格が必要な仕事もある
  6. 非合法・非道徳な依頼も入ってくる
  7. 「電話一つで開業」は儲からない
  8. 競合は便利屋+専門業者
  9. まとめ

ホームページは必要不可欠

総務省が作成した2015年の情報通信白書では、何か調べたいことがある際に使う手段がインターネットの検索サイトであると答えた人の割合は、全世代に渡って7割弱〜8割強という結果が出ています。近年スマートフォンがより浸透していることを考えれば、この傾向は強まりはしても弱まってはいないでしょう。

そのため便利屋を開業する場合も、ホームページの開設による集客は必要不可欠です。チラシなどでも集客できないわけではありませんが、インターネットからの集客に比べれば、どうして見劣りしてしまいます。

SEO対策に失敗している男性

しかし開設して、連絡先やサービス内容を記載するだけでは不十分で、そのホームページがGoogleやYahoo!といった代表的な検索エンジンで検索上位に表示される必要があります。なぜならほとんどの消費者は検索上位に表示されたページをクリックして、そこで用事を済ませてしまうからです。

ところが検索エンジンの検索上位に表示されるためには、付け焼き刃の知識や技術では至難の技です。したがって便利屋がホームページから集客を得るためには、専門的な知識や技術を身につけるか、もしくはそれらを持っている専門の業者にホームページの開設やメンテナンスを発注する必要があります。

インターネット時代の便利屋にとって、ホームページはいわばお店の顔。できるだけ開業前に準備しておきたいところです。

信用は顔・口コミ・許認可で作る

便利屋の仕事には依頼者のプライベートに関わったり、自宅に入ったりするようなものも少なくありません。ではそのような仕事を頼む際に、信用できない業者を選ぶでしょうか。答えはNOのはずです。このときの便利屋の課題は、信用・信頼をいかにして作り上げるかということになります。

しかし便利屋の依頼者というのは、得てして新規客が多く、リピーターはごく一部にすぎません。そのため「何度も取引を繰り返して信用と信頼をコツコツと作り上げる」というやり方はほとんど通用しません。したがって便利屋は依頼者が便利屋選びをする時点で「ここは信用・信頼できそうだ」と思ってもらう必要があるのです。

そのために効果を発揮するのが次の3つです。

ブログにスタッフの顔が映った作業現場の写真などを載せて、どんな人が働いている便利屋なのかを知ってもらう。
口コミ 過去の依頼者から口コミを募集し、生の声としてホームページなどに掲載する。
許認可 各種業務に関する許認可を取得し、登録番号などをホームページに掲載する。

こうして信用や信頼に値する便利屋だと判断できるような情報を依頼者に与えることで、「ここは信用・信頼できそうだ」という印象を持ってもらえるのです。このように考えると、ホームページはこうした信用・信頼を作るという意味でも非常に重要なツールだと言えるでしょう。

実店舗は必要ない

「信用や信頼が必要なのであれば、やっぱり実店舗があった方がいいのではないか」と考える人もいるかもしれません。実際フランチャイズには実店舗を構えることを加盟条件としているところもあるほどです。

しかし便利屋に関して言えば、実店舗の必要性はほとんどありません。むしろ実店舗を構えることで家賃や光熱費、備品などの経費がかさみ、それを料金に上乗せしなければならないのであれば、実店舗は集客の邪魔にすらなります。

豚の貯金箱

というのも消費者が便利屋を選ぶ際の最優先事項はどれだけ安く仕事を請け負ってくれるかだからです。にもかかわらず、実店舗を構えたことで料金を高くしているようでは、本末転倒になってしまいます。そのため料金をできる限り安くするためにも実店舗は構えないほうがいい場合が多いのです。

「何でもやる」には許認可が必須

便利屋のサービスは実に多岐に渡ります。不用品回収や不用品買取、ゴミ屋敷の掃除に買い物の荷物持ち、チケットの購入代行に行列代行、浮気調査や結婚式の出席代行……まさに何でも屋です。しかし何でもできるからと言って、何でもやっていいというわけではありません。

例えば一般家庭から出た不用品をゴミとして処理場まで運搬するのであれば一般廃棄物収集運搬業許可が必要ですし、不用品を買い取るのであれば古物商許可が必要になります。浮気調査をするのであれば探偵業の開業届が必要ですし、軽トラックでの引越しサービスを提供するのであれば、貨物軽自動車運送事業の届出を提出しなければなりません。

ペットシッターをやるには動物取扱業の登録が必要ですし、借金などの取り立てを代行するのであれば債権管理回収業営業許可を取得する必要もあります。

したがって電話で依頼されたからと言って、何でもその場で請け負うというわけにはいきません。便利屋として「何でもやる」ためには、その仕事に必要な許可や届出を理解し、あらかじめ手続きを済ませておかなければならないのです。

国家資格が必要な仕事もある

許可や届出と同様に、仕事によっては国家資格が必要なケースもあります。

例えばコンセントや壁スイッチ、廊下のダウンライトなどの修理を行う場合は、電気工事士の資格が必要です。あるいはトイレや台所の水漏れ、排水のつまりなどに対応するためには、給水装置工事主任技術者・排水設備工事責任技術者といった資格を取得している必要があります。不用品回収サービスや引越しサービスなどに伴って、中型・大型トラックを運転する場合は、それらの運転免許も取得していなければなりません。

これらも許可や届出と同じように、1日や2日で取得できるようなものではありません。そのため開業前に勉強を済ませて取得しておくか、開業後に時間を捻出して取得する必要があります。

非合法・非道徳な依頼も入ってくる

違法薬物

・違法薬物の配達を請け負ってほしい
・振り込め詐欺の現金受け取りに行ってほしい
・本人に代わって替え玉受験をしてほしい
・呪い代行を頼まれてほしい
・特定のカップルを破局させてほしい など

便利屋として営業していると、時折こうした非合法・非道徳的な依頼が入ってくることもあります。しかし非合法な依頼を受ければ、業者自身も罪に問われますし、非道徳的な依頼を受ければ当事者から訴えられたり、賠償金を請求されたりとトラブルに巻き込まれる可能性もあります。

確かにリスクがある分、報酬を釣り上げられる余地が大きいと考えることもできます。しかしまっとうに便利屋業を続けていくつもりなのであれば、こうした非合法・非道徳な依頼には一切関与しないのが正解です。

「電話一つで開業」は儲からない

便利屋は電話一つで開業できるとも言われ、実際に携帯電話だけで便利屋を始めたというところも一定数います。しかしビジネスの観点から言えば、電話一つで開業しても成功するのは至難の技です。

なぜなら便利屋に寄せられる依頼に対応したり、依頼者からの信用や信頼を得ようと思えば、様々な投資が必要になるからです。以下にその一例を挙げてみましょう。

軽トラックなどの作業用車両代
駐車場代
車両整備費
制服・作業着代
光熱費・通信費
ホームページ作成などにかかる広告宣伝費
損害保険などの保険代

この他にも清掃サービスを行う場合は掃除器具や薬剤・洗剤、電気工事や水道工事サービスを行う場合は電動工具などへの投資も必要です。前述した許可や資格の取得、届出の手続きにも手数料などがかかりますが、これも投資の一部と言えます。

もちろんこれらの投資を全くせずに、文字通り電話一つだけで開業することもできます。しかしそれでは、きっちりと準備をして必要なところに投資をしている便利屋と渡り合うのは至難の技です。したがって、一定以上の投資をするだけの準備は必要になるはずです。

競合は便利屋+専門業者

並み居る競合のなかで、どう抜きん出るか?

大手フランチャイズのTVCMやネット広告などの影響もあり、便利屋は社会一般に浸透していると言えます。そのため便利屋を開業する人も増え、元芸能人が有名フランチャイズを経営しているというケースさえあります。つまり便利屋の競合はすでに非常に多く、そこで勝ち抜かなければ経営は厳しくなる一方であるということです。

これは便利屋を開業する前に、よくよく理解しておく必要がある事実です。便利屋を経営していく以上、既存の業者とどのように差別化し、依頼者を獲得していくのかという戦略は必要不可欠になるでしょう。

しかも便利屋の競合には便利屋だけでなく、専門業者も含まれます。不用品回収にも、ハウスクリーニングにも、水道工事にも、電気工事にも、浮気調査にも、全て専門業者が存在します。業界によっては便利屋と同じく、大きなフランチャイズもあります。

こうした専門業者と差別化する方法は、専門店を超えるサービスを提供するか、専門店を圧倒する安い料金で依頼を受けるかのいずれかです。そのためには技術の習得や機器への投資、業務の効率化などが必要不可欠になります。これもまた行き当たりばったりでは乗り越えられないハードルです。

まとめ

簡単に始められるビジネスは、同じくらい簡単に失敗してしまいます。これを防ぐには、簡単に始められるからこそきっちりとした準備をしてから始めるという姿勢が必要です。

便利屋は極端に言えばスマートフォンさえあれば始められるビジネスです。しかしそれでは売上は伸びず、たとえ伸びてもすぐに限界を迎えます。そうした失敗を回避したいと考えるのであれば、ここで解説した8つのことを念頭に置いて、あらかじめ入念な準備をしてから開業することをおすすめします。