借金の取り立て

便利屋には合法・違法問わず様々な依頼が寄せられます。違法な依頼を引き受けるわけにはいかないため当然断るわけですが、一見合法的な依頼に思えても依頼を受ける業者の問題で違法になる場合もあります。それはその仕事をするために許可や届出が必要な場合です。

借金の取り立て(債権回収)もその一つです。これを仕事として請け負うには債権管理回収業の許可が必要だからです。ここではその根拠となる法律や、法律の成立背景などを解説しながら、便利屋がこの許可を取得できるかどうかを考えます。

INDEX
  1. 借金の取り立て代行には許可が必要
  2. 債権管理回収業の許可のハードルは高い
    1. 取締役に弁護士が1名以上必要
    2. 資本金が5億円以上必要
  3. まとめ

借金の取り立て代行には許可が必要

買掛け金や家賃、リース料や借入金は債務と呼ばれ、これを請求する権利を債権と呼びます。そのため借金の取り立て代行などは債権管理回収業と呼ばれます。

借金の取り立てというと、恐喝まがいの取り立てをイメージする人も多いかもしれません。しかし実際はより穏便で、かつ建設的な仕事です。というのも債権管理回収業の主な仕事は、電話や手紙、訪問などで債務者と連絡を取り、いつまでに支払いができるか、もしくはどのような計画を立てているのかなどをコミュニケーションの中で尋ねたり、一緒に考えたりすることだからです。

ただし、かつてはこうした穏便かつ建設的な債権回収を行う業者ばかりではありませんでした。暴力団まがい、もしくは実際の暴力団が債権回収を行い、支払わないようなら「裁判になる」「給料や不動産の差押えを強制執行する」「勤務先まで集金に行く」「信用情報機関のブラックリストに登録する」といった脅しをかけるケースも少なくありませんでした。

このような状況を改善するために行政が定めた法律が債権管理回収業に関する特別措置法であり、これによって確立されたのが債権回収会社(サービサー)制度と呼ばれるものです。この法律により、法務大臣の許可を受けた債権回収会社しか、合法的に債権管理回収業を営めなくなったのです。

したがって許可を受けずに借金の取り立てを引き受けたり、もしくは不正な手段で許可を取得したりすると、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこの両方の罰則が適用される可能性があります。

債権管理回収業の許可のハードルは高い

「許可を受けなければ業務ができないのであれば、許可を取得すればいいだろう」と思うかもしれません。しかし実は債権管理回収業の許可のハードルは非常に高く、便利屋が他のサービスの傍に取得するのは至難の技です。その理由は大きく2つあります。

・取締役に適切な知識と経験のある弁護士を1名以上配置する必要がある。
・資本金の額が5億円以上必要である。

取締役に弁護士が1名以上必要

第一の理由は、債権管理回収業に関する特別措置法の第五条の四号に定められている以下の条文が根拠になっています。

四 常務に従事する取締役のうちにその職務を公正かつ的確に遂行することができる知識及び経験を有する弁護士のない株式会社
引用元: 債権管理回収業に関する特別措置法

第五条は当てはまる人に許可が下りるのではなく、当てはまる人に許可が下りないという条文です。つまり社外取締役として弁護士を雇っていなければ、許可は取得できないということです。

もちろんそのためには役員報酬を支払う必要がありますが、一般財団法人労務行政研究所が発行する『労務時政』によれば、2017年の社外取締役の平均年間報酬は平均643万円。規模別に見ると1,000人以上の大企業で883万円、300〜999人の企業で553万円、300人未満の企業で410万円となっています。

こうした人件費をコンスタントに支払うほど債権管理回収業に力を入れるのであれば別ですが、そうでなければ儲けよりも弁護士1名以上を社外取締役として雇うコストが上回ってしまい、本末転倒になってしまいます。したがって便利屋業を営むうえで、債権管理回収業の許可を取得するのは難しいと言えるのです。

資本金が5億円以上必要

さらに債権管理回収業に関する特別措置法の第五条は、一号で以下のような基準も設けています。

一 資本金の額が五億円以上の株式会社でない者
引用元: 同上

前述したように第五条は当てはまる人に許可が下りるのではなく、当てはまる人に許可が下りないという条文ですから、資本金が5億円以上なければ許可が取得できないということです。

大企業のビル群

この「資本金の額が5億円以上」というのは、会社法第二条六号にある大会社の定義と一致しています(実際には負債額が200億円以上あることも定義に含まれます)。つまり債権管理回収業に関する特別措置法は、その区分に該当する企業でなければ債権管理回収業を営んではならないとしているのです。

ちなみに統計局が作成した「平成26年経済センサス-基礎結果調査」(総務省統計局)によれば、資本金額が3億円〜10億円未満の企業は全体の0.5%、10億円〜50億円未満で0.2%、50億円以上で0.1%となっています。これだけでも全体の1%未満ですが、債権管理回収業の基準は5億円以上なので、許可の取得ができるのはさらに少数ということになります。

以上のことから、便利屋が債権管理回収業の許可を取得するのは非常に難しくなっているのです。

まとめ

借金の取り立て代行は、法務大臣の許可を受けた一部の企業にしか許されていないサービスです。そのため依頼を引き受けてしまうと、その時点で罰則の対象になってしまいます。依頼が来たら直ちに断るか、法務省が公開している債権管理回収業の営業を許可した株式会社一覧の中に名前のある企業を紹介するようにしましょう。