タクシー運転手

日本政府観光局(JNTO)が発表している「年別 訪日外客数,出国日本人数の推移」によれば、2012年以降の訪日外国人数は年々増加傾向にあります。2017年には2800万人を超え、2018年は10月までの累計ですでに2600万人を超えています。

政府が「観光立国」を掲げていることもあり、今後もこの傾向は続いていくでしょう。そんな中、地元の観光スポットなどをタクシーで案内する観光タクシーの需要も増えていくと考えられます。便利屋としてこのビジネスに参入できないかと考えている人もいるのではないでしょうか。

しかし観光タクシーサービスを含む、タクシー・ハイヤー業には各地域の運輸局からの許可が必要になります。ここではこの許可の必要性や種類、そもそも便利屋が取得できるかなどを解説します。

INDEX
  1. 観光タクシーをするには許可が必要
    1. タクシー・ハイヤー業の許可について
    2. 「観光案内料だからタクシー業じゃない」は通用しない
  2. 便利屋は観光タクシーの許可を取得できるのか?
    1. 個人タクシーか法人タクシーか?
    2. 許可取得のボトルネックは「運転経歴など」
  3. まとめ

観光タクシーをするには許可が必要

タクシー・ハイヤー業の許可について

観光タクシーを含む、タクシー・ハイヤー業を営むためには、道路運送法という法律の第四条第一項で定められている、一般乗用旅客自動車運送事業の許可が必要になります。一般乗用旅客自動車運送事業とは、乗車定員10人以下の自動車を貸し切って旅客を運送する事業のことで、乗車定員が11人以上になると一般貸切旅客自動車運送事業と呼ばれるようになります。

道路運送事業法は第九十六条〜第百五条で罰則について定めていますが、仮に許可を受けずにタクシー・ハイヤー業を営んだ場合は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が課せられる可能性があります。そのため今後観光タクシーなどのサービスを始めようと考えているのであれば、まず一般乗用旅客自動車運送事業の許可を取得する必要があるのです。

「観光案内料だからタクシー業じゃない」は通用しない

腕でバツを作る女性

「でも観光案内料として料金を受け取って、タクシーやハイヤーの運賃としてお金を受け取らなければセーフなのでは?」と考える人もいるかもしれません。しかし2017年8月14日付の国自旅第75号「通訳案内士による自家用車を用いた通訳案内行為について」で、このような行為は道路運送法に違反する行為とみなすことがはっきりと書かれています。該当箇所は以下の部分です。

仮に、通訳案内を行う際の運送行為について、利用者から運送費名目の金銭等を収受せず、外形上無償で行われている場合であっても、これと一体的に行われる通訳案内業務に対する対価が支払われている場合は、当該運送に係る経費は通訳案内業務で収受する料金で賄われており、実態上は有償で行われているものと判断されることから、従前どおり、当該行為については道路運送法に違反する行為である。
引用元: 国土交通省

つまり「観光案内料だからタクシー業じゃない」は通用せず、観光案内料と同時にタクシーのサービスが提供されている限り、それは一般乗用旅客自動車運送事業の許可が必要な行為だとみなされるということです。

便利屋は観光タクシーの許可を取得できるのか?

個人タクシーか法人タクシーか?

一般乗用旅客自動車運送事業は個人タクシーか法人タクシーかによって許可の種類が変わります。一般乗用旅客自動車運送事業の許可を取得する際には、いずれかを選択することになりますが、便利屋が観光タクシーサービスを提供する場合、どちらを選ぶべきなのでしょうか。

法人タクシーは一台を社員複数名で使用できるなどのメリットがありますが、一方で最低車両台数というものが定められているため、設備投資にコストがかかるというデメリットがあります。最低車両台数は地域によって大幅に変動がありますが、都市部の方が多く、地方部の方が少なくなる傾向にあります。例えば大阪府の場合は、以下のように定められています。

地域 最低車両台数
大阪市、豊中市、吹田市、守口市、門真市、東大阪市、八尾市、堺市(ただし、平成17年2月1日に編入された旧南河内郡美原町の区域を除く。)及び池田市・伊丹市のうち大阪国際空港の区域 10両
池田市、箕面市、茨木市、高槻市、摂津市、三島郡及び豊中市・伊丹市のうち大阪国際空港の区域 5両
枚方市、寝屋川市、交野市、四條畷市及び大東市 5両
松原市、藤井寺市、柏原市及び羽曳野市 5両
富田林市、河内長野市、大阪狭山市、堺市(ただし、平成17年2月1日に編入された旧南河内郡美原町の区域に限る。)及び南河内郡 5両
泉大津市、和泉市、高石市、岸和田市、貝塚市、泉佐野市、泉南市、阪南市、泉北郡及び泉南郡 5両

引用元: 近畿運輸局

タクシー・ハイヤー業を専門でやるのならともかく、便利屋として他のサービスの中に組み込むのであれば、法人タクシーの許可はコストがかかりすぎると言えるでしょう。そのため許可を取得した本人しか運転ができないというデメリットはあるものの、車両が1台あればいい個人タクシーの許可が現実的な選択肢になります。

許可取得のボトルネックは「運転経歴など」

悩む中年男性

しかし個人タクシーの許可も簡単に取得できるわけではありません。最も大きなボトルネックになるのが、許可基準に設けられた運転経歴などという項目です。細かい部分は運輸支局によって変わりますが、例えば東京都・神奈川県・埼玉県などを管轄とする関東運輸局の場合、以下のような条件が設けられています。

申請時の年齢 運転経歴要件
35歳未満 1.申請する営業区域において、申請日以前継続して10年以上同一のタクシー又はハイヤー事業者に運転者として雇用されていること。
2.申請日以前10年間無事故無違反であること。
30歳以上
40歳未満
1.申請日以前、申請する営業区域において自動車の運転を専ら職業40歳未満 とした期間(他人に運転専従者として雇用されていた期間で、個人タクシー事業者又はその代務運転者であった期間を含む。)が10年以上であること。この場合、一般旅客自動車運送事業用自動車以外の自動車の運転を職業とした期間は50%に換算する。
2.1.の運転経歴のうちタクシー・ハイヤーの運転を職業としていた期間が5年以上であること。
3.申請する営業区域においてタクシー・ハイヤーの運転を職業としていた期間が申請日以前継続して3年以上であること。
4.申請日以前10年間無事故無違反である者については、40歳以上65
歳未満の要件によることができるものとする。
40歳以上
65歳未満
1.申請日以前25年間のうち、自動車の運転を専ら職業とした期間65歳未満 (他人に運転専従者として雇用されていた期間で、個人タクシー事業者又はその代務運転者であった期間を含む。)が10年以上であること。この場合、一般旅客自動車運送事業用自動車以外の自動車の運転を職業とした期間は50%に換算する。
2.申請する営業区域において、申請日以前3年以内に2年以上タクシー・ハイヤーの運転を職業としていた者であること。

引用元: 関東運輸局

タクシー・ハイヤーの運転手として5年もしくは10年以上も経験があり、しかも年齢によっては無事故無違反を通していなければならないというのは、かなりハードルが高いと言わざるを得ません。確かにもともとタクシー・ハイヤーの運転手としてキャリアを積んできた人が便利屋を始めるのであれば、個人タクシーの許可を取得して活用することもできるでしょう。

しかし多くの人がそうではないはず。そのため一般乗用旅客自動車運送事業の許可を取得するには、今からキャリアを積む必要があります。すでにキャリアを積んでいる人を雇うという選択肢もありますが、個人タクシー事業者として独立できるキャリアのある人を便利屋として雇うのも、今からキャリアを積もうとするのと同様に現実的な選択肢ではありません。

したがって特別な事情がある場合を除いて、無理に経歴を積んでまで一般乗用旅客自動車運送事業の許可を取得するよりは、別のサービスを展開した方が懸命だと言えるでしょう。

まとめ

今後観光客が増えていくであろう日本においては、地域よっては観光タクシーの需要の伸びが期待できます。しかし観光タクシーサービスを提供するには一般乗用旅客自動車運送事業の許可が必須であり、しかも法人タクシー・個人タクシーともに取得するには大きなハードルをクリアしなければなりません。

このことを考えると、便利屋の他のサービスの傍で観光タクシーサービスを営むという戦略は現実的ではないと言えます。観光客をターゲットにしたサービスを展開するのであれば、荷物の一時預かりサービスや、飲食店・宿泊施設ガイドなど別の方面でのサービス展開を考える方が良いでしょう。