度重なる改正や通知などによって理解や運用が難しい「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法、廃掃法)」。不用品回収業者が知っておきたい廃棄物処理法の重要判例集その1では、「おから裁判」「混合再生砂裁判」「建設汚泥改良土裁判」の3つの判例を取り上げ、それぞれの裁判の経緯や判決、不用品回収業者が押さえておきたいポイントを解説しました。
ここでは同じく重要な判例である「水戸木くず裁判」「徳島木くずボイラー裁判」の2つについて解説します。
“一連の経済活動”という概念が示された「水戸木くず裁判」
建設廃材を木材チップに加工して販売するのは、産業廃棄物処理業に該当するのかどうかが争われた裁判です。この裁判では総合判断説で示された基準に加えて、「一連の経済活動」において価値や利益があるかどうかという基準が示されました。
どうして裁判が起きたのか?
産業廃棄物収集運搬業許可を受けている解体業者Aは、住宅の解体や廃棄物の処理作業一式を請け負っていました。解体業者Aはこのときに生じる木材(木くず)を、破砕業者Bの工場に持ち込み、処理料金を支払って受け取ってもらっていました。破砕業者Bはこの木くずを受け取ったあと、高品質の製紙・合板用チップとして加工・販売していました。製紙用チップは薬品で煮込まれてパルプになり、紙を作るための原料として使われ、合板用チップはさらに薄く切削されたあと圧縮されて合板となります。
ここで問題になったのは、破砕業者Bの工場が産業廃棄物処理業許可を受けていなかったことです。仮に解体業者Aが処理料金を支払って持ち込んでいる木くずが産業廃棄物なのであれば、これを製紙・合板用チップに加工するためには産業廃棄物処理業許可が必要です。しかしこの木くずが産業廃棄物ではなく有価物で、製紙・合板用チップという製品の原料なのであれば、産業廃棄物処理業許可は必要ありません。
司法が下した判決は?
この裁判は第一審の地方裁判所で「木くずは産業廃棄物ではないため、破砕業者Bは無許可営業に当たらない」という判決が出ています。
確かに処理料金を受け取っているかどうかは、廃棄物か有価物かの大きな判断基準です。しかしこれだけで判断してしまうと、木くずが何かしらの経済的な価値を持つ時代と持たない時代で廃棄物かどうかの判断も変わってしまい、それに合わせて許可の必要の有無も変わってしまいます。
例えば江戸時代や明治初期の頃は木は主要な燃料だったため、明らかな有価物でした。仮にこの裁判がそのような時代に起きていれば、たとえ破砕業者Bが処理料金を受け取っていても、木くずは有価物であり、産業廃棄物処理業許可も必要ないと判断されたでしょう。一方現代のように木が主要な燃料でなくなれば、処理料金を受け取っている=廃棄物であるという判断になってしまいます。
地方裁判所はこのような状況を「法的安定性を著しく欠くもの」とし、総合判断説の基準に加えて、次のような判断基準を示しました。
再生利用を予定するものの取引価値の有無ないしはこれに対する事業者の意思内容を判断するに際しては、有償により受け入れられたか否かという形式的な基準ではなく、当該物の取引が、排出業者ないし受入れ業者にとって、それぞれの当該物に関連する一連の経済活動の中で価値ないし利益があると判断されているか否かを実質的・個別的に検討する必要があると解される。
引用:『廃棄物処理法重点整理』p26
つまり木くずを再生利用するにあたって、ビジネスとして成立しているのかどうかを判断の基準としているのです。この判断基準に基づけば、解体業者Aから破砕業者Bに引き渡された木くずはチップ化されて販売されていたわけですから、確かに有価物であると言えます。結果破砕業者Bは無罪となりました。
「水戸木くず裁判」には続きがあった!
破砕業者Bが無罪になったところまでがいわゆる「水戸木くず裁判」ですが、実はこの裁判には続きがあります。
この破砕業者Bは無罪であるという判決を見て、解体業者Aが高等裁判所に上告したのです。というのも解体業者Aは地方裁判所での公判の以前に、簡易裁判所で「無許可業者への委託」という罪で50万円の罰金刑に処せられていたからです。
破砕業者Bも同様の罰金を課せられましたが、これを拒否して地方裁判所に控訴し、無罪を勝ち取りました。これでは解体業者Aが納得しないのも当然です。そこで「破砕業者Bが無罪なら、自分も無罪ではないのか。罰金刑を取り消してくれ」と高等裁判所に申し出たわけです。
しかし高等裁判所は解体業者Aが行った控訴を含む地方裁判所での判決を棄却。「木くずは廃棄物である」と簡易裁判所の判決を正しいとしました。その根拠はどこにあるのでしょうか。高等裁判所は廃棄物かどうかの判断のために「一連の経済活動」という概念を使うことを認めながらも、さらに以下のような条件を加えています。
単に受入業者により再生利用が行われるというだけではなく、その再生利用が製造事業として確立したものであり継続して行われていて、当該物件がもはやぞんざいに扱われて不法に投棄等がされる危険性がなく、廃棄物処理法の規制を及ぼす必要がないというような場合でなければならない。
引用元: 裁判所
つまり「一連の経済活動が成立している」と言うためには、当該物件(=今回の場合は木くず)が適切に扱われている必要があるというわけです。
今回の場合、実は解体業者Aから持ち込まれた木くずの量は破砕業者Bの処理能力を超えており、積み上げられた木くずの山が自然発火する事故も起きていました。高等裁判所はこの事実を指摘して「一連の経済活動は成立していない。だから解体業者Aが持ち込んだ木くずは廃棄物である」という判断を下したのです。
「水戸木くず裁判」というと、「一連の経済活動」を認められた破砕業者Bが無罪になったという点がフォーカスされがちですが、実はこうした結末があるのです。
不用品回収業者が押さえておきたいポイント
高等裁判所での判決を含む「水戸木くず裁判」全体で、不用品回収業者が押さえておくべきポイントは、高等裁判所が示した「一連の経済活動が成立している」と言うためには、当該物件(=今回の場合は木くず)が適切に扱われている必要があるという見解です。
この裁判のようなケースで不用品回収業者が関わるとすれば、解体業者Aと破砕業者Bの間です。つまり産業廃棄物収集運搬業許可を取得して解体業者Aから木くずを回収し、破砕業者Bに委託するような場合です。
このとき不用品回収業者は単に破砕業者Bに木くずを引き渡すだけでなく、その木くずの総量が破砕業者Bのキャパシティを超えていないのかまで確認しておかなければなりません。でなければ解体業者Aのように「無許可業者への委託」の罪で刑事罰を受けかねないからです。
産業廃棄物の再利用はありかなしか?「徳島木くずボイラー裁判」
自社の事業活動から出た木くずをボイラーの燃料として使う場合に、この木くずは産業廃棄物に該当するかどうかが争点になった裁判です。この裁判では、リサイクルの観点から廃棄物かどうかが判断されるケースもあるということが示されました。
どうして裁判が起きたのか?
内装ドアユニット等の木製品を製造している業者Cが、自社工場内で発生した木くずの一部をボイラー設備の燃料として再利用していました。これを管轄である徳島県知事が問題視し、廃棄物処理法に基づく「産業廃棄物処理施設」として適切でないとして、設備の改善・使用停止命令と設置許可取消処分を下します。業者Cはこれを不服として、徳島県を相手に処分の取り消しを求めて裁判を起こしました。
争点となったのは、自社の事業活動から出た木くずを再利用する場合に、その木くずが産業廃棄物になるかどうかです。もし産業廃棄物になるのであれば廃棄物としての処分が必要になりますし、ならないのであればその必要はありません。
司法が下した判決は?
判決は「廃棄物に該当しない」でした。なぜなら今回の木くずが、「おから裁判」で示された総合判断説の5つの判断基準を全てクリアしているからです。以下で一つ一つ見ていきましょう。
その物の性状
実際に熱源として利用されており、性質上動物の排泄物や食品の食べ残しのように保管・焼却によって悪臭が発生する可能性が低いため、問題なしと判断されています。
排出の状况
本来排出の状況が適切であると認められるためには、その排出が需要に沿った計画的なものであり、かつ適切な保管・品質管理がされていなければなりません。その意味で今回の木くずは排出が需要に沿った計画的なものではないため、この基準をクリアできないと考えることも可能です。
しかし裁判所は今回の木くずが、木製品の製造段階で生まれる副産物であること、また決まった量が蓄積されるごとに密閉された炉の中に供給されていたことを考えれば、「排出が需要に沿った計画的なものでない」という点をことさら取り上げる必要はないと判断しました。
通常の取扱い形態
本来通常の取扱い形態が適切であると認められるには、市場で広く取引されている必要があります。しかし今回の木くずの場合は自社での再利用なので、裁判所は市場価値の有無を判断基準にする必要はないとしました。
また有限な資源が有効活用されているという点は、リサイクルの観点から適切に扱われていると言えます。さらに裁判所は「自社の木くずを燃料として使用する場合、その木くずは廃棄物に該当しない」とする実例が「該当する」とする実例よりも多いことなどから、自社の事業活動から出た木くずを燃料として再利用することは、通常の取扱形態の一つとして認められると判断しています。
取引価値の有無
裁判所は自社で再利用する場合は、「自社で再利用する価値があるかどうか」で判断するべきだとし、今回の木くずにはその価値があると認めています。
事業者の意思等
この木くずの処理を外部に委託した場合、自社で再利用するよりも圧倒的にコストがかさみます。裁判所は業者Cにそのコストを削減する意図があったことは「否定できない」としながらも、それだけで今回の木くずを廃棄物として処理しようとしたとは言えないという判断を下しています。そのため事業者の意思等についても問題はないとされました。
不用品回収業者が押さえておきたいポイント
「徳島木くずボイラー裁判」で不用品回収業者が押さえておくべきポイントは、「リサイクル」が大きなキーワードになっているという点です。裁判所は適切にリサイクルされているという点を積極的に評価することで、「コスト削減の目的があった」などの問題も大目に見ています。
当然自社の事業活動で出た木くずを再利用するというケースなので、この判断が全てのケースに当てはまるとは限りません。しかし一方で司法がそれだけリサイクルを重要視しているという証明でもあるのです。もしリサイクルの観点から目の前の品物が廃棄物に該当するのであれば各種許可が必要になりますし、該当しないのであれば自社での収集運搬等が可能かもしれません。
無用なトラブルに巻き込まれないためにも、あるいはビジネスのチャンスを逃さないためにも、目の前の品物がリサイクルの観点からどのような性質を持っているかを、よく考えるようにしましょう。
「廃棄物とは何か」は一概には判断できない
「おから裁判」「混合再生砂裁判」「建設汚泥改良土裁判」「水戸木くず裁判」「徳島木くずボイラー裁判」と5つの判例を解説してきましたが、これらの判例からわかるのは「廃棄物とは何か」は一概には判断できないということです。だからこそ裁判が起きた経緯や司法が判決に至った根拠をしっかりと理解しておく必要があります。そうすれば個別のケースについて考えるための知識も、自ずと身についていくでしょう。