中国国土。

2018年1月に公開した雑品スクラップの危機!中国の規制強化と国内法改正の解説と対策で解説した通り、2017年6月の廃棄物処理法改正と、同時期のバーゼル法改正、さらに同年8月の中国による「輸入廃棄物管理目録」と「固体廃棄物輸入禁止目録」の発表により、雑品スクラップ市場は非常に厳しい状況に立たされました。

ここでは、記事公開から2018年9月現在までの9ヶ月の間に起きた雑品スクラップ関係の出来事と現状をレポートしながら、これからの雑品スクラップ市場について考察します。

INDEX
  1. 雑品スクラップの受け入れストップ、もしくは価格下落
  2. 原因である中国ルート閉鎖は今後も続く見通し
    1. 2018年に入ってから行われた中国の規制拡大
    2. 2018年末を待たずに中国ルート閉鎖の可能性もあり
    3. 規制緩和の可能性はあるのか?
  3. 別ルートの開拓か?選別による質改善か?
    1. 中国以外の雑品スクラップの輸出ルートを見つける
    2. 雑品スクラップを選別によって原料に加工する
  4. 雑品スクラップ市場は今後も試行錯誤が必要

雑品スクラップの受け入れストップ、もしくは価格下落

2017年8月に中国環境保護省が発表した固体廃棄物輸入禁止目録には、廃電池・廃電気電子製品・廃家電などを含む雑品スクラップの記載がありました。そのためこの目録が効力を発揮する2017年12月末以降、中国への雑品スクラップの輸入禁止もしくは制限がスタートしています。中国は日本の雑品スクラップにとって、最大の輸出先でした。そのためこれをきっかけに、スクラップ業者にも様々な動きが出ています。

例えば産業機械や車両部品等の工業系雑品スクラップと、企業や一般家庭などによって廃棄される電化製品などの家電系雑品スクラップのうち、アルミや銅などの価値の高い非鉄金属の含有量が少ない家電系雑品スクラップについてのみ受け入れを停止する業者もいます。また工業系も家電系も受け入れてはいるものの、買取価格を引き下げている業者もいますし、雑品スクラップとしての質によって買取価格に大幅な差を設けている業者もあります。

実際産業廃棄物収集運搬業の現場では、スクラップ業者に買取してもらえる品物が以前に比べて激減しており、仮に買取してもらえたとしてもかなり安くなっていたり、無料もしくは有料で引き取ってもらったりする場合が増えている状況です。そうした処分費用の負担を減らし、いかに利益を減らさないかに焦点を当てて、持ち込む業者を選んでいるというところも少なくないようです。

中国への雑品スクラップの輸入禁止もしくは制限がスタートしてからの9ヶ月。雑品スクラップ市場は厳しさを増していると言えるでしょう。

原因である中国ルート閉鎖は今後も続く見通し

2018年に入ってから行われた中国の規制拡大

鋼材。

2015年末時点で、生産量1億トンとも言われ中国の環境汚染を推し進めたとされる、質の悪い違法な粗鋼「地条鋼(ちじょうこう)」が表向き排斥されました。すると粗悪ながら安かった地条鋼の供給がなくなったことで、中国国内の粗鋼需要が急増。2017年の中国の粗鋼生産量は過去最高の8億3,173万トンを記録しました。

このような状況を見ると、中国では金属を多く含む雑品スクラップの需要も高まっているだろうと予測できます。しかし現状中国が優先しているのは、深刻化している環境問題の解決のようです。というのも2017年末に行われた規制強化は、2018年4月19日に中国政府から発表された「『輸入廃棄物管理リスト』の調整に関する公告」により、さらに拡大されたのです。

具体的には2018年12月31日から雑線・廃モーターといった銅スクラップ、アルミスクラップなどの16品目が、2019年12月31日からステンレススクラップ、チタンくず、木材くずなどの16品目が輸入禁止品目として追加されることになりました。これにより、事実上雑品スクラップの中国への輸出ルートは2018年末をもって完全に閉鎖されると解釈しても、問題ないでしょう。

2018年末を待たずに中国ルート閉鎖の可能性もあり

また同時に、中国政府は雑品スクラップの輸出および輸入ライセンスの規制にも取り組んでいます。以前は半年〜1年ごとに更新させていたところが、数ヶ月単位で更新させるようにしているのです。このライセンスの更新が行われなくなれば、2018年末を待たずに雑品スクラップの輸入がストップする危険性もあります。

雑品スクラップの輸入をストップすることにより、中国国内のリサイクル業者の雇用面での問題が起きるとの見方もありましたが、2018年の中国の失業率は低下傾向にあり、有効求人倍率は上昇傾向にあります。こうした中国の経済状況を考慮すれば、今後も廃棄物の輸入規制が続く可能性は高いと言えそうです。

規制緩和の可能性はあるのか?

一方で中国の規制は長続きせず、近いうちに規制緩和が行われるという見方もなくなったわけではありません。雑品スクラップを受け入れられない原因の一つは、現在の中国が大量の雑品スクラップを適切に処理できる状態にないからです。

逆に言えば、処理能力の問題さえ解決されれば、中国は雑品スクラップをまた受け入れられる可能性があるということです。この点と、前述した中国国内での雑品スクラップ需要の高まりを考慮した場合は、規制緩和の選択肢も生まれるというわけです。

しかし楽観視してばかりいられないこともまた事実です。スクラップ業者はもちろんのこと不用品回収業者やリユース店も、今後の中国の動きを注意して観察するとともに、できる限りの対策を講じる必要があるでしょう。

別ルートの開拓か?選別による質改善か?

現在スクラップ業界で検討されている対策には大きく2つの方向性があります。一つは中国以外の雑品スクラップの輸出ルートを見つける方法、もう一つは雑品スクラップを選別によって原料(炉前材)に加工する方法です。

中国以外の雑品スクラップの輸出ルートを見つける

コンテナ輸送船。

中国以外の雑品スクラップの輸出ルートとして検討されているのは、マレーシアやベトナム、カンボジアといった東南アジアルート、もしくはロシアルートです。しかしこちらの方法については現時点では実現の可能性はかなり低いと言わざるを得ないようです。

なぜなら雑品スクラップは海を渡って輸出されますが、中国以外のルートでは1回の輸送費が利益を大きく削ってしまうからです。というのも中国の港湾施設には、雑品スクラップを船にそのまま積載する「バラ積み」にも対応できる設備が整っているのに対し、他国の港湾施設はコンテナに格納しておかなければ対応できません。コンテナ輸送はバラ積みに比べて輸送量が少なくなります。結果1回あたりの輸送費がかさんでしまうのです。このことから、中国以外のルート開拓は難しいだろうと考えられているのです。

また単純に雑品スクラップの許容量の問題もあります。近年の日本は中国に対して毎年200万トン近くの雑品スクラップを輸出してきました。これを受け入れ、適切に処理する余裕のある受け入れ先を探すのは、至難の技なのです。

雑品スクラップを選別によって原料に加工する

雑品スクラップには鉄を始め、アルミや銅などの非鉄金属も含まれています。鉄鋼メーカーなどはここから原料となる金属を取り出し、これを溶かして製品に加工します。しかしこれには非常に手間と時間がかかるため、これまでは雑品スクラップの大半は中国に輸出されてきました。

ところが中国がこの雑品スクラップの受け入れを拒否。すると手持ちの雑品スクラップを処理しきれなくなったスクラップ業者の中には、鉄鋼メーカーに納品する鉄スクラップに雑品スクラップを混ぜ込むというところも出てきてしまいます。そんなことをすれば当然鉄鋼メーカーの製品の質は落ちてしまいます。

そのため鉄鋼メーカーは質の悪い雑品スクラップの受け入れを拒否するなどして対応しましたが、そこで困るのはスクラップ業者です。そこで持ち上がったのが雑品スクラップを選別によって原料(炉前材)に加工する方法です。中国でも日本でも雑品スクラップの行き場がなくなりつつある現状で、考えられる対策は選別による雑品スクラップの加工だというわけです。

お金の山。

しかしここでもまだ問題があります。それは資金の問題です。というのも雑品スクラップの選別をするためには数億円規模の設備投資が必要で、全ての業者が雑品スクラップの加工ができるわけではないのです。したがってこの方法も中国以外のルートを探すのと同様、実現が難しいというのが現状です。

雑品スクラップ市場は今後も試行錯誤が必要

2018年9月現在の雑品スクラップ市場は、かなり厳しい状況にあると言わざるを得ません。しかし雑品スクラップは日々発生し続けているため、楽観的に中国の規制緩和を待ち続けているわけにもいきません。関係各社は今後も試行錯誤を続け、何らかの打開策を見出す努力が求められるでしょう。