不用品回収の現場では「回収したはいいものの、検品してみると売り物にならないことがわかった」といったケースは日常的に起こります。こうした売り物にならない回収品に自社で対応するとなると一定の処分費用がかかり、数が多くなれば利益を圧迫しかねません。そのため不用品回収業者としては「売り物にならないことがわかったら返品して、依頼者側で処分してほしい」というのが本音のはずです。
確かに「売り物にならない回収品」をどう扱う?違法回収業者にならないための正しい取扱方法でも解説しているように、この種の回収品の取り扱いは法的にデリケートなため、自社で対応した方が無難かもしれません。またサービス業としては、一度有価物として買い取ったのであれば自社で対応するのが妥当だとも言えます。
しかしそうした問題を考えないとすれば、不用品回収業者が売り物にならない回収品を依頼者に返品するという行為は、法律的には可能なのでしょうか。今回はこの疑問について、大阪府庁と大阪市役所の担当窓口を中心に公的機関に問い合わせた結果をまとめました。
※なお、細かいルールやその解釈については、各自治体で異なる場合があることをあらかじめご了承ください。
売り物にならない回収品は返品できる
不用品回収業者が売り物にならない回収品を依頼者に返品するという行為は、法律的に可能なのか。この疑問に対する公的機関の回答は「契約で決めていれば可能である」でした。
大阪府庁と大阪市役所の担当窓口のほか、訪問購入のルールについて定める特定商取引法の管轄機関となる経済産業省(近畿経済産業局)、古物の買取ルールについて定める古物営業法の管轄機関となる公安委員会(浪速警察署)にもそれぞれ問い合わせましたが、いずれも同じ回答が返ってきました。
売り物にならない回収品は有価物なのか、廃棄物なのか?
しかしだからと言って契約書やホームページに「買い取った品物が廃棄物と判明した場合は返品します」などと書いてしまうと、公的機関から注意や指導を受ける可能性があります。
なぜなら、売り物にならない回収品の返品にはいくつか論点があり、それらをクリアにしておかなければ廃棄物処理法に抵触する恐れがあるからです。その論点とは、売り物にならない回収品が有価物なのか、廃棄物なのかということです。
売り物にならない回収品が有価物だった場合は、回収品を依頼者宅へ運搬するための特別な資格や許可は必要ないため、契約さえしていれば問題なく返品できます。仮に別の運送業者に委託する場合でも、一般貨物自動車運送事業許可や貨物軽自動車運送事業の届出を出している業者であれば問題ありません。
しかし廃棄物の場合は話が違います。原則として廃棄物を運搬するには一般廃棄物収集運搬業許可もしくは産業廃棄物収集運搬業許可が必要です。そのため廃棄物を返品するとなると、返品する不用品回収業者や委託される運送業者に各種収集運搬業許可が必要になるのではないか、という疑問が生まれるのです。
公的機関は「売り物にならない回収品」をこう考える
JRITSではこの論点を踏まえたうえで、産業廃棄物の管轄機関である大阪府庁の担当窓口と、一般廃棄物の管轄機関である大阪市役所の担当窓口に問い合わせを行いました。以下はその際のJRITS側の質問と、それに対する担当者の回答です。
大阪府庁担当窓口への質問と回答内容
<JRITSからの質問内容>
家電量販店などとの間で「在庫品等を有価物として引き受けたあと、不用品回収業者側の倉庫で廃棄物だと判明した場合には返送する」という契約をしていた場合、この返送には産業廃棄物収集運搬業許可は必要でしょうか?
<大阪府庁担当窓口の回答>
重要なのは品物の所有権がどこにあるかということです。例えば依頼者のところから不用品回収業者の倉庫などに運び込む際に、買取による金銭の授受が発生している場合は、所有権が不用品回収業者に移っています。そのため、倉庫に運び込んでから廃棄物だと判明した場合は、不用品回収業者の事業活動によって出た廃棄物となるため、産業廃棄物として対応しなければなりません。
しかし倉庫に運び込んだ時点では金銭の授受が発生しておらず、単に見積もりをするだけなのであれば、所有権は依頼者側にあることになります。そのため事前に契約をしているのであれば、返送するために特別な許可は必要ありません。
ただ一番安全なのは、売り物になるかどうかがグレイな品物に関しては買い取らないことですね。
大阪市役所担当窓口への質問と回答内容
<JRITSからの質問内容>
一般消費者との間で「有価物として引き受けた品物が、不用品回収業者の倉庫で廃棄物だと判明した場合には返送する」という契約をしていた場合、この返送には一般廃棄物収集運搬業許可は必要でしょうか?
<大阪市役所担当窓口の回答>
排出者が誰なのかということが重要です。この場合、単にいち商品として返送するのであればその時点では有価物なので、通常の運送で問題ありません。一般消費者は、返送された品物を自身を排出者として処分すればいいだけです。
しかし廃棄物として返送するのであれば、(もともと有価物とみなされていたものが、不用品回収業者のところで初めて廃棄物とみなされて返送されることになるので、)排出者は不用品回収業者になります。この場合は事業系一般廃棄物もしくは産業廃棄物として対応しなければなりません。
ちなみに大阪市では金属やガラス、プラスチックや、その配分が多いものは産業廃棄物として区分しており、木屑とか紙くず、布とか、食品やその配分が多いものは事業系一般廃棄物として区分しています。といってもこれは事業者が排出者の場合で、排出者が一般家庭の場合は全て一般廃棄物に区分されます。
廃棄物は返送できない
大阪府庁と大阪市役所の担当窓口の回答からわかるのは、以下の2点を契約時点ではっきりさせておくべきだということです。
・所有権がどの時点でどこにあるのか
・有価物か廃棄物かを判断するのは、どの時点なのか
これらを明確にしておけば有価物として返送しやすくなるため、許可を取得しなくとも売り物にならない回収品を返送できます。
では廃棄物として返送したい場合、許可さえ持っていれば返送できるのでしょうか。事業系一般廃棄物に関しては、大阪市から次のような回答を得ています。
<大阪市役所担当窓口の回答>
一般廃棄物収集運搬業許可は「積替え」が許可されていないため、一度積み込むと焼却工場などに持っていかなければなりません。そのため一般消費者のところへ返送するということはできません。
各種関連法令を確認してみると、産業廃棄物に関しても同様であることがわかります。仮に産業廃棄物収集運搬業(積替え・保管を含まない)の許可であれば、一般廃棄物同様に積み替えはできません。また取得の難しい産業廃棄物収集運搬業(積替え・保管を含まない)の許可でも、依頼者側の倉庫や自宅は積替え・保管を行う施設としては認められません。
したがって、不用品回収業者側で回収品が廃棄物であると確定した場合は、返送できないと考えるのが妥当でしょう。
まとめ
依頼者との契約内容次第では、売り物にならない回収品を依頼者に返品することは可能なようです。
確かに実際には不用品回収業者が自社で対応するケースが大半かもしれません。しかし自衛のために、契約内容に不用品回収業者側からの返品ができるようなルールを組み込みたいと考える業者もあるはず。その際は、ここで説明した内容を考慮したうえで法的に適切なルールを設けるようにしましょう。また自社で対応する場合でも、廃棄物の区分をしっかりと理解したうえで、区分に適した方法で処分するべきです。
現状、日本の環境行政の体制は万全とは言えません。しかしだからといって定められたルールを破っていいということにはなりません。正しくルールを理解したうえで、そのルールの中でどう戦っていくべきなのかを考えていきましょう。