駆ける犬。

便利屋の看板を掲げていれば、様々な仕事を依頼されます。旅行などで自宅を空けるなどの理由で、その間ペットの面倒を見るよう依頼されるペットシッターの仕事もその一つです。

しかし実はペットシッターサービスを提供するためには、動物取扱業の事業者としての登録が必要になります。ここではペットシッターサービスの今後の市場動向について考察したうえで、動物取扱業の登録方法や必要書類、注意点などについて解説します。

INDEX
  1. ペットシッターサービスの需要は伸びていく
  2. ペットシッターをするには動物取扱業の登録が必要
    1. 登録する動物取扱業の種類を確認する
    2. 動物取扱責任者の資格を取得する
    3. 動物取扱業の欠格要件・登録要件を確認する
  3. 未登録での営業は30万円以下の罰金!
  4. まとめ

ペットシッターサービスの需要は伸びていく

一般社団法人ペットフード協会が毎年行っている「全国犬猫飼育実態調査」を見るとペットシッターサービスの需要は今後伸びていくと考えられます。確かに同調査の2017年版によれば、現在日本のペット飼育率や飼育頭数は犬に関しては減少、猫に関しては横ばいという状況で、これだけを見るとペットシッターサービスの需要が特別伸びるとは言えそうにありません。

しかし同じ年の調査の「あったらいいと思う飼育サービス」の項目では、41.3%が「旅行中や外出中の世話代行サービス」を挙げています。この傾向は2016年版でも同様で、全体の41.0%がペットシッターサービスを挙げているのです。これは市場が求めているにも関わらず、サービスの供給が不十分だということでしょう。

したがってペットを飼っている人のニーズを満たすペットシッターサービスを提供できれば、高い確率で受注につながると考えられます。

ペットシッターをするには動物取扱業の登録が必要

申請書

しかし冒頭でも書いたように、ペットシッターをするには動物取扱業の登録が必要です。以下では4つのステップに分けて、動物取扱業の登録までの方法を解説していきましょう。

登録する動物取扱業の種類を確認する

動物取扱業にはまず大きく二種類があります。一つは第一種動物取扱業。営利目的で動物を「販売」「保管」「貸出し」「訓練」「展示」「競りあっせん」「譲受飼養」する事業を指します。もう一つは第二種動物取扱業です。これは非営利目的で動物の「譲渡し」「保管」「貸出し」「訓練」「展示」する事業を指します。便利屋としてペットシッターを行う場合は、第一種動物取扱業に該当します。

この第一種動物取扱業は、さらに事業内容ごとに以下の7つの業種に分類されます。

業種 該当するサービス例
販売 小売業者、卸売業者、輸入業者など
保管 ペットホテル業者、ペットシッターなど
貸出し ペットレンタル業者、タレントやモデルとしての動物派遣業者など
訓練 動物の訓練・調教業者など
展示 動物園、水族館などの業者
競りあっせん オークション業者など
譲受飼養 老犬・老猫ホームなど

したがって便利屋としてペットシッターを行う場合は、第一種動物取扱業の保管業に該当します。登録もこの業種ごとに行う必要があるため、自分がどの業種で登録するべきなのかを理解しておきましょう。

動物取扱責任者の資格を取得する

次に行うのが動物取扱責任者という資格の取得、もしくは有資格者の採用です。というのも動物取扱業の事業者として登録するためには、この資格を持っている人間が専任者として1名以上所属していることが条件だからです。そのため登録の前にあらかじめ取得しておくか、有資格者を採用しておく必要があるのです。

この資格を持った人間は、従業員などに対して動物取扱責任者研修において学んだ知識や技術を指導する立場にあります。また施設や動物の安全・健康管理や、動物が適切に取り扱われるよう監督する役目も担います。

有資格者を採用してもかまいませんが、その場合その人が退職してしまうとペットシッターサービスがストップするというリスクがあります。そのためリスクを考えるのであれば、経営者や信頼の置ける従業員などが資格を取得する必要があります。

資格取得のために学校に通う社会人。

ただ動物取扱責任者の取得は、あまり簡単ではありません。というのも動物愛護法第十二条の第一号から第六号に記載されている欠格要件に該当しないだけでなく、以下の3つのうちいずれかの条件を満たしている必要があるのです。

1.動物取扱業の業種ごとに半年以上の実務経験があること。
2.動物取扱業の業種ごとに、必要な知識及び技術について一年間以上教育する学校法人その他の教育機関を卒業していること。
3.動物取扱業の業種ごとに、必要な知識及び技術を習得していることの証明になる資格を取得していること。

3の資格とは保管業の場合、例えば愛玩動物飼養管理士(1級・2級)、愛犬飼育管理士、愛護動物取扱管理士、ペットシッター士など全27種類あります。どれを取得しても条件を満たしていると認められますが、どれを選ぶにしても仕事の合間をぬって勉強をする必要があります。

人手の足りているならともかく、人手に困っているのなら、まずサービスをスタートさせられるので効率が良いかもしれません。一度サービスが始まってしまえば、そこで管理業の実務経験が積めるので、それを半年続ければ動物取扱責任者が取得できるようにもなります。

なお、動物取扱責任者は事業所ごとの専任である必要があるほか、自治体開催の動物取扱責任者研修を毎年1回受講させる義務があるという点にも注意が必要です。

動物取扱業の欠格要件・登録要件を確認する

動物取扱責任者が用意できたら、次は第一種動物取扱業の管理業における欠格要件・登録要件を確認しましょう。ここで欠格要件に該当する、もしくは登録要件に該当しない場合は、たとえ動物取扱責任者が所属していても事業者としての登録は断念しなければなりません。

欠格要件 申請者と動物取扱責任者が、成年被後見人もしくは被保佐人、または破産者でまだ復権を得ない者である。
申請者と動物取扱責任者が、動物愛護法に基づく登録の取り消し処分を受けてから、2年以内の者である。
申請者が役員を務めていた法人が、動物愛護法に基づく取り消し処分を受けており、処分の30日前まで役員だった場合で、かつその処分の日から2年が経過していない。
申請者が業務の停止期間を経過していない。
申請者が以下の3つの法律において罰金刑以上の刑を受けており、刑執行が終わった、もしくは刑を受けることがなくなった日から2年が経過していない。
・動物愛護法
・化製場等に関する法律 第10条第2号若しくは第3号
・狂犬病予防法 第27条第1号若しくは第2号
法人役員に上記のいずれかに該当する者がいる。
登録要件 事業所に関わる土地と施設について、そこで事業が実施できる権原を持っている。
事業所ごとに専属の動物取扱責任者を配属させる。
事業所ごとに、顧客に対して適切な動物の取り扱い方法などを説明する、または実際に取り扱える従業員を設置する。(動物取扱責任者と兼任可)
事業所以外の場所で、顧客に対して適切な動物の取り扱い方法などを説明する、または実際に取り扱える従業員を設置する。(動物取扱責任者と兼任可)

表中の「そこで事業が実施できる権原」についてですが、事業所が借家の場合は後述する必要書類のうち「事業所の土地および建物について事業の実施に必要な権原を有することを示す書類」に、ペットシッターサービスを提供する事業所として使用しても構わないという署名・捺印を、事業実施場所の所有者か管理委託者からもらう必要があります。

なお、販売業や貸出業にはこれとは別に専用の登録要件が定められていますが、保管業に関してはそのような登録要件はありません。

動物愛護センターなどで手続きを進める

ここまでのステップをクリアしたら、ようやく登録の手続きを始められます。提出期限、提出場所、手数料や必要書類は下表の通りです。

提出期限 営業を開始するまで
提出場所 各自治体の動物愛護センター、動物保護管理センターなど
手数料 1業種につき15,000円程度(自治体によって多少の変動あり)
必要書類(個人) ・第一種動物取扱業登録申請書(2部)
・申請者と動物取扱責任者が欠格要件に該当しないことを示す書類。
・動物取扱責任者についての以下のいずれか。
→従事証明書
→教育機関等の卒業証明書か成績証明書
→資格の免許証の写しなど
・事業所及び飼養施設の土地および建物について事業の実施に必要な権原を有することを示す書類
・確認書
必要書類(法人) 上記のものに加えて
・登記事項証明書(発行3ヶ月以内の原本)
・役員の氏名および住所一覧

上表の必要書類の様式などは、動物愛護センターなどのホームページなどでダウンロードができるところもあれば、センターの窓口に取りに行く必要があるところもあります。具体的には管轄のセンターまで問い合わせてください。

なお上表の内容は、依頼者の自宅でペットシッターを行う場合のものです。保管業でもペットホテル業のように飼養施設がある場合は、別途飼養施設の平面図と飼養施設付近の見取り図の提出が必要になります。

また登録には有効期限があり、登録から5年で失効してしまいます。そのため第一種動物取扱業の保管業者としての登録は、5年ごとに更新しなければなりません。その際は失効の2ヶ月前から更新手続きができるようになります。

未登録での営業は30万円以下の罰金!

罰金を言い渡される場面

動物取扱業を営むうえでは、状況に応じて様々な罰則が設けられています。以下の罰則の適用を受けないよう、法令を遵守した営業を心がけましょう。

罰則 違法行為
30万円以下の罰金 ・未登録のまま動物取扱業を営む。
・不正な手段で登録や登録の更新を受ける。
・業務停止命令に違反する。
・動物取扱業者の基準遵守義務に違反し、かつそれについての勧告および命令に違反する。
20万円以下の罰金 ・登録内容の変更届出をしない。
・虚偽の変更届出をする。
・法で定められた報告をしない。
・虚偽の報告を行う。
・立入検査等を拒否、妨害、もしくは忌避する。
・廃業等の届出をしない(法人)。
・廃業等について虚偽の届出を行う(法人)
10万円以下の罰金 事業所ごとの標識の掲示を怠る。

表中の「動物取扱業者の基準」とは、主に動物愛護法の中で定められている基準を指しています。動物取扱業の管理業者として、顧客の自宅でペットシッターを行う場合には、次のような基準が適用されます。

・適切な飼養または保管
・広告の表示規制(名称、住所、業種、登録番号・登録年月日・登録有効期限、動物取扱責任者の氏名)
・関係法令に違反した取引の制限
・事業所内の見えやすいところへの標識や名札(識別票)の掲示
・動物取扱責任者の配置

ただし自治体によっては条例などで別途独自の基準を設けている場合があるため、詳細は各自治体の動物愛護センターなどに問い合わせるようにしてください。

まとめ

便利屋を開業する前に知っておくべき8つのことでも解説したとおり、便利屋はなんでもできるからといって、なんでもやっていいわけではありません。ペットシッターサービスを提供するためには、動物取扱責任者を所属させたり、第一種動物取扱業の保管業者としての登録手続きをしたり、動物愛護法の基準を守りながら営業したりする必要があります。もし段階を踏まずにいきなり営業をスタートさせると罰金刑が課せられる可能性もあります。

したがって今後便利屋としてペットシッターのサービスを提供しようと考えている場合は、あらかじめ登録のための準備を進めておきましょう。